もっとも、新NISAは老後の資産形成のために活用している人が多いと思います。そのため「投資家が老後を迎えたら、積み立てた外貨建て投信を日本円に換金する。円は返ってくるから問題ない」という人もいます。ですが、本当にそうなるのでしょうか。

誰もが亡くなるまでに資産を使い切るわけではありませんし、老後になった時点で円安だったら、積極的に換金する動機にはならないでしょう。あるいは、日本人の多くが外貨資産を持っている状況になれば、国内においても外貨で決済できるサービスが広まる可能性も考えられます。すでに一部ネット銀行では、そうしたサービスを開始してもいます。

いずれにせよ、新NISAで積み立てられた外貨建て投資信託が役割を終えて日本円に戻ってくるのは、相当先の話です。その間に、「強い円」を知らない若者世代のたしなみとして、社会人になったら新NISAでオルカンを積み立てるという流れがより加速していくでしょう。

外国株を買う流れは変わらないだろう

日本のNISA/新NISAが手本とした「ISA」(Individual SavingsAccount=アイサ)制度がある英国では、年間2万ポンド(約374万円)の非課税枠に加え、新たに自国英国の株式や投資信託に限定した投資枠を年間5000ポンド(約94万円)上乗せする案が議論の俎上にのぼりました。

ISAは1999年にスタートしましたが、英国の欧州連合(EU)離脱などを背景に、英国民の個人マネーが海外に流出。企業が他国で資金調達を行う事例も相次ぎました。そうした状況を食い止めようと、2025年4月の導入を目指して検討が開始されたのでした(編集部注:24年7月の総選挙で政権交代が起こった影響で、この計画は現在頓挫しています)。

日本は新NISAの内容が練られている段階で、英国で自国資産の流出が問題となっているのを知っていたはずです。ですが、22年5月に岸田文雄首相がロンドンで「Invest in Kishida」(日本に投資を)と資産運用立国になることを高らかに宣言し、世界に力強く投資を呼びかけながら「でも、国民には日本株を買うよう優遇するんですけどね」とはできなかったのだと思います。

今後、制度を運用する中で適宜適切な修正はあってしかるべきだと思います。まだ投資枠を使い切っていない人も相応に多い状況であれば、投資家には選択肢があるわけで、「なぜ日本株に限定されなきゃいけないんだ」と反発する声も起こりにくいでしょう。

日本株の優遇措置も、個人資産が外貨に置き換えられるのをなにもせず見ているよりはいいだろうという程度で、「積極的に日本株を買いましょう」という流れにはならないかもしれません。というのも、新NISAで外貨建て資産を買った人はこの半年間でおおむね成功体験を獲得しているからです。この先も長期的には円安の潮流は変わらないと思います。