世界遺産登録は「観光客の締め出し」

「世界遺産『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群を核とした文化観光推進地域計画」という報告書(文化庁)では、2017年に登録された、福岡県宗像市・福津市の世界遺産の構成資産についてこのように記している。

世界遺産登録後、急増した構成資産への来訪者数は、その反動減などにより、減少傾向にあります。また、80万人を超える参拝客が訪れる宗像大社辺津宮や年間来訪者数150万人を超える人気の道の駅むなかたが近隣にあるにもかかわらず、海の道むなかた館や宗像大社神宝館等への来訪が振るわない現状にあります。加えて、福岡県民に対するモニター調査の結果では、本世界遺産の構成資産に来訪したことのない人の割合が、約6割を占めています。

そもそも、「神宿る島」たる沖ノ島は、年1回の祭礼時には一般の人も島に渡れたのが、世界遺産登録と同時に一切上陸できなくなった。「世界遺産は観光地のお墨付き」どころか、「世界遺産は観光客の締め出し」となっている典型例なのである。

観光のための「世界遺産」は割に合わない

世界遺産そのものはたしかに素晴らしい。法隆寺の木造建築群や極楽浄土を再現した宇治・平等院鳳凰堂は、説明なしにその普遍的な価値が伝わってくる。しかし、近年世界遺産に登録される物件は、この宗像・沖ノ島関連遺産群もそうだが、登録された背景などを知らないとその価値が伝わらない。そして訪れた本人ももう一度来たいとなかなか思えないし、知人にも訪問を勧めようとはしない。

登録直後はメディアが大きく取り上げるし、地元の自治体も登録を寿ことほぎ、様々なイベントを開いたり、関連グッズを開発したりして話題を提供する。しかし、翌年には別の場所の世界遺産が登録され、全国的なマスメディアの関心は薄れる。

そして、一見して単なる河原の草っぱらにしか見えない佐賀県の「三重津海軍所跡」(「明治日本の産業革命遺産」の構成資産)やこぢんまりとした貝塚があるだけの青森県の「田小屋野貝塚」(「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産)は、限られた人が足を運ぶだけで、一般的な観光地にはなりにくい。

世界遺産登録には、観光振興以外に地域住民が郷土の文化の価値に気づくとか、それによって郷土に誇りを持つようになるなど、副次的な効果がいくつもあり、それこそが世界遺産に登録される大切な意義ではある。しかし、少なくとも観光振興の面から見て、登録までの膨大な手間と費用を考えれば、割に合わないと思う人がいてもおかしくないだろう。