「人気観光地」になるところばかりではない
しかし、世界遺産になれば、観光地のお墨付きがもらえるのかと言えば、そうとは言いきれない。
こんな例もある。群馬県の富岡製糸場である。世界遺産の正式名称は、「富岡製糸場と絹産業遺産群」。富岡製糸場のほかに近隣の自治体に散らばる三つの構成資産が世界遺産となっている。
まず、富岡製糸場だが、たしかに知名度は上がり、登録された2014年には前年の4倍もの観光客が押し寄せた。そもそも登録運動が始まる前は一企業の所有だったため、見学そのものができない状況であった。
沈滞していた地方都市は、一気に観光客の増加に沸いた。製糸場の周囲には飲食店や土産物店がいくつも進出した。しかし、登録の翌年から見学者は右肩下がりに減り続け、コロナの直前の2019年度には約44万人と、6年でほぼ3分の1に急減した。富岡製糸場以外の3資産はさらに観光客が少なく、世界遺産の「観光客誘致効果」はかなり微妙だったと言わざるを得ない。
今後も世界遺産を守り抜くことはできるのか
急減したからと言って元の暮らしに戻れればいいのだが、観光客を見越して空き地が駐車場になったり、市外から進出した店舗が撤退して空き物件になったりしているのを見ると、嵐が過ぎ去った後のような、「荒らされてしまった」感があって、世界遺産登録の「陰」を見たような気分になる。
しかも、富岡市が所有する製糸場の建造物や敷地内の樹木などの維持管理には莫大な費用がかかり、その多くを入場料収入で賄っていた。入場者の減少は、文化財の保護に関してもマイナスとなる。世界遺産になったからといって、ユネスコからの金銭的援助は危機遺産の保護などに使われる「世界遺産基金」を除いて全くない。製糸場の貴重な建物は、果たして今後も守られていくのだろうか?