役職立候補制でヤル気を向上
そこで、優秀な社員は役職者に抜擢し、責任ある仕事や役職手当を与えることでモチベーションを高めている。実はここでもユニークな取り組みを行っている。それが「役職者立候補制度」だ。7年ほど前からスタートした。
加藤会長は「役職者は私が選ぶより、自分で手を挙げた社員から選んだほうがいい。本人には役職者としての意欲もビジョンもあるはずだから。それに本人が一番納得する」と説明する。社員が自薦他薦でワンランク上の希望の役職に立候補し、役員が面談して昇格させるかどうかを決める。12年には約10人が立候補し、全員が昇格したという。
本社品質チームリーダーの渡辺敏行さんは10年4月入社で、品質チームに配属後、上司に勧められてチームリーダーに立候補し、11年12月に就任した。製品の品質管理などを担当し、部下は3人いる。「納入先からのクレームを半減させるのが目標。役員が出席する重要な会議で、意見を述べることもある。若いうちから責任ある仕事を任されて、やりがいがある」と目を輝かせる。
エイベックスは、15年に売上高80億円、20年に同100億円の達成を目指している。一方、電気自動車が普及すると、将来はスプールバルブの需要が減る見通しのため、若手社員が中心となって、医療・福祉など新市場への参入も検討し始めている。ただし、国内に踏みとどまるという基本路線に変更はない。
海外進出しないのは、「社員たちが望まないから」と加藤会長は明かす。「外国に行くのは社員の負担も大きい。技術力さえあれば、無理して海外に出なくても、新しい取引先は開拓できる。実際に欧州の大手自動車メーカーから引き合いがあるくらいだ」(加藤会長)。同社には、中国や韓国のメーカーからの見学が引きも切らないが、見学者は終身雇用や年功序列がどうしても理解できないという。
「彼らは、『なぜ実績や能力に応じた待遇にしないのか』と必ず聞いてくる。中国や韓国では、企業が人材を育成して、技能を伝承する考え方がほとんどない。その結果、国際競争力を保つこともできなくなるのではないか」と加藤会長は語る。
産業界がかなぐり捨ててきた国内生産、終身雇用と年功序列を、まわりに流されずに独自の視点から評価し、経営に活かしてきたエイベックス。その姿勢から日本企業が学ぶことは多そうだ。
福井県立大学 地域経済研究所所長
中沢孝夫教授のコメント
壊れたら部品の供給がなく、 自分たちで加工したり作ったりしているうちに、他に代替の利かない技術を内部に取り込むようになる。
また、そうした技術は長期雇用によってはじめて身に付くものなのだ。
本社:愛知県名古屋市瑞穂区内浜町26-3/事業内容:自動車オートマチック用スプールバルブの製造/代表者:加藤丈典社長/年商:32億300万円(2012年5月期)/従業員:261人