小林氏出馬で「本格的な政策論争」に

その意味でも、今回の総裁選は、これまで以上に本格的な政策論争が繰り広げられるのではないかと期待している。真っ先に立候補を表明した小林鷹之氏が、すでに具体的な政策を発表していることから、続く候補者も自身の考えを明確に打ち出してくるものと考えられる。多くの候補者が出馬するなかで、保守とリベラルといった立場の違いも明確になり、見どころの多い総裁選といえるだろう。

8月28日現在、正式に立候補を表明したのは若手の小林鷹之氏と石破茂元幹事長、河野太郎デジタル大臣の3人だが、近日中に複数の議員が名乗りをあげることになりそうだ。

改めて総裁選の仕組みを確認すると、選挙は国家議員票と全国の党員・党友会票によって行われる。ただし、過半数の候補者が出なかった場合、上位2人の決選投票となる。これだけ候補者がひしめく戦いでは、1回の投票で決着するとは考えにくく、決選投票に持ち込まれる可能性が高い。

1回目の投票は、国会議員票(367票)と党員票(367票)が同数と、全国の党員票の比重が高いのに対して、決選投票では、国会議員票(367票)と都道府県連票(47票)となり、国会議員の支持が重要になる。勝ち方が異なるため、戦略が必要になるだろう。

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決戦投票やその先を見据えた「長期的な戦略」が求められる

まず、1回目の投票については、党員票と国会議員票をバランスよく集める必要がある。今回のような混戦状態では国会議員票が分散するため、党員票の重みはさらに増す。明確な政策とビジョンを提示し、幅広い支持を得ることが重要だ。圧倒的な党員票を獲得して勝ち抜くという戦略もあり得るだろう。全国の党員票の動向は、一般的な民意に近いものになることから、国民的人気の高い小泉進次郎氏や石破茂氏などが上位に来る可能性が高い。

一方、決戦投票では、国会議員票が極めて重要になる。特にカギになるのは、1回目の投票で脱落した敗者の票をいかに取り込むかだ。敗者の支持者も共感できる政策を掲げ、共通の目的を強調することが必要だろう。

派閥が解体されたとはいえ、人と人の関係性やつながりの影響力が消えるわけではない。旧派閥やグループ間の結束力が勝敗を大きく影響することは必至だ。いまも水面下では、候補者間の合従連衡や協力関係の形成など、決戦投票に向けた戦略的な交渉が進んでいる。

なお、今回の総裁選で長期的な戦略が求められるのは、早いタイミングでの解散・選挙が予想されているからだ。内向き・決戦投票目的の国会議員中心主義では、衆院選で苦戦するか、新政権発足後に問題が顕在化することになると予想される。