「30年以内に70~80%の確率で」と言われても分からない

太平洋岸の海域で東海地震、東南海地震、南海地震という3つの巨大地震が発生する予測について具体的に見てみよう。これらが30年以内に発生する確率は、M8.0の東海地震が88%、M8.1の東南海地震が70%、M8.4の南海地震が60%と計算されている。三つの数字は毎年更新され、しかも少しずつ上昇している。そして三連動した場合に当たる南海トラフ巨大地震については、今後30年以内に発生する確率を「70〜80%」としている。

実は、ここに大きな問題があると私は常々考えている。というのは、30年以内に70%と言われてもピンとこないからだ。これは一般市民だけでなく私のような地球科学の専門家も同じなのである。

ここで私はあることに気がついた。人は実際の社会では「納期」と「納品量」で仕事をしている。つまり、いつまでに(納期)、何個を用意(納品量)という表現でなければ人は動けないのではないか。たとえば、京都の和菓子屋に「30日以内に100個を70%の確率で注文します」と注文しても、一体いつまでに何個用意していいかわからない。日常の感覚では「一カ月後に70個届けて下さい」が普通である。

私もそうだが人は日常、確率では暮らしていないので、納期と納品量という形で表記しないとに落ちないのである。

南海トラフ地震で知っておくべき「2つの項目」

よって、必ず起きる南海トラフ巨大地震について、私が伝えたいのは以下の2項目だけである。

すなわち「南海トラフ巨大地震は約十年後に襲ってくる」「その災害規模は東日本大震災より10倍大きい」。講義でも講演会でも私はその二つに絞って伝えてきた。日常感覚で理解できる2項目をしっかり認識してもらうことから始めなければならない、と考えるからである。

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この課題は、企業が事業継続計画(Business continuity planning, BCP)を立案するかどうかのモチベーションにも関わっている。これは、地震の被災後になるべく早く仕事を再開するため、何をどういう順番で行うかを事前に計画する作業である。ところが、30年以内に70%の地震発生確率と言われてもピンとこないので、事業継続計画があまり進んでいないという現実がある。

特に、南海トラフ巨大地震によって6800万人が被災すると、近隣地域から救助と援助に駆けつけられないという事態が生じる。すなわち、レスキューとサプライの両方が停止する恐れがある。