10県が被害を受け、犠牲者数は最大で33万人

南海トラフ巨大地震の規模はM9.1であり、2004年にインドネシアのスマトラ島沖で起きた巨大地震と同じである。この地震では高さ30メートルを超える巨大津波が発生し、インド洋全域で25万人以上の犠牲者を出した。国が行った南海トラフ巨大地震の被害想定では、海岸を襲う津波は34メートルに達するとされる。

また巨大津波が一番早いところでは2〜3分後に襲ってくる。東日本大震災と比べて津波の到達時間が極端に短い理由は、地震が発生する南海トラフが西日本の海岸に近いからである。地図を見ればわかるように震源域が陸上に重なっている(図表1を参照)。その結果、地震としては、九州から関東までの広い範囲に震度6弱以上の大揺れをもたらす。特に、震度7を被る地域は、10県にまたがった総計151市区町村に達する(図表3)。

国の想定では、犠牲者総数が最大33万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートルとされている。南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、被災地域が産業や経済の中心であることを考えると、東日本大震災よりも一桁大きい災害になる可能性が高い。

「南海トラフ巨大地震」という名称の問題点

内閣府の試算では南海トラフ巨大地震は日本の総人口の半数に当たる6800万人が被災する。経済的な被害総額に関しては、内閣府で220兆円を超えると試算されている。

たとえば、東日本大震災の被害総額の試算は20兆円ほど、GDPでは3%程度とされているが、南海トラフ巨大地震の被害予想がその10倍以上になることは確実とされる。ちなみに、220兆円という被害総額は日本政府の一年間の租税収入の4倍を超える額に当たる。まさに、「西日本大震災」という状況になることが必至である。

こうした被害想定は日常生活からかけ離れているので、国民の多くは具体的にイメージできない。ここで私は西日本大震災と書いたが、この言葉は私が発案した言葉で、始めから世間で認知されたものではない。

通例、震災の名称は大災害が起きてから政府が閣議で決定する。たとえば、阪神・淡路大震災や東日本大震災は、こうして決められた。2030年代に発生が予想される南海トラフ巨大地震はまだ起きていないので、震災名は付けられていない。といって、日本の屋台骨を揺るがす激甚災害が予測されることから、国は「南海トラフ巨大地震」という言葉で対策を進めてきた。

ところが、ここに問題があると私は考えた。いくら南海トラフ巨大地震と連呼しても、南海トラフがどこにあるのかを知らない一般市民が非常に多いのである。これは私自身が講演会に集まってきた聴衆に尋ねた経験からもそうだ。