「西日本大震災」と呼んだほうが分かりやすい
そもそも、「トラフ」という見慣れない言葉を使って防災を説いても、一向に伝わらないのである。そこで私は思案した。東日本大震災であれば誰もが知っている。よって東を西に変えた「西日本大震災」という言葉であれば誰にでもイメージがしやすいから、南海トラフ巨大地震の代わりになるのではないか。
実際、西日本大震災を引き起こす南海トラフ巨大地震のマグニチュードはM9.1であり、東日本大震災のM9.0と規模がほぼ等しい。よって、「東日本大震災と同じような巨大地震が来るのです」と説明すると、聴衆は直ちに理解してくれる。その後、拙著のタイトルに用いた頃から次第に広まるようになった(たとえば鎌田浩毅著『西日本大震災に備えよ』PHP新書、2015年)。
なお、被害総額の220兆円およびGDPの30%という数字は過小評価だと考える研究者も少なからずいる。というのは、後に述べるように、日本列島の半分近くが被災するような災害では、積み上げ式の被害想定をはるかに上回る被害となることが多々あるからだ。
したがって、東日本大震災の総被害の「少なくとも一桁以上大きな災害」と考えるのが妥当ではないかと私は考える。ちなみに、私は講演会では「東日本大震災と同規模の地震。でも被害は10倍」と説明するようにしている。
地震の発生予測はどのように行われているのか
政府の地震調査委員会は、日本列島でこれから起きる可能性のある地震の発生予測を公表している。全国の地震学者が集まり、日本に被害を及ぼす地震の長期評価を行っている。
地震の発生予測では二つのことを予測している。一つ目は、「今から数十年間において、何%の確率で起きるのか」である。既に述べたように巨大地震は海のプレートと陸のプレートという2枚の厚い岩板の間がずれる運動によって起きる。
1回ずれると2枚のプレートの境目にエネルギーが蓄積される。この蓄積が限界に達し、非常に短い時間で放出されると海底で巨大地震が起きる。プレートが動く速さはほぼ一定なので、巨大地震は周期的に起きる傾向がある。この周期性を利用して、地震発生確率を算出するのである。
二つ目の予測は、「どれだけの大きさ(マグニチュード)の地震が発生するのか」である。こちらは過去に繰り返し発生した地震がつくった断層の面積と、ずれた量などから算出される。こうして今後30年以内に発生する確率予測が出されるのだが、これはコンピュータで計算するので誰がやっても同じ答えが出る。
そして今後30年以内に大地震が起きる確率を随時、各地の地震ごとに予測している。逆に言うと、人間の判断が入る余地が生じないので、国としてはこうした情報を出したがるとも言えよう。