トランプは「曖昧戦略」を理解しているか
米国政府はこれまで、中国が台湾に侵攻した場合、米国がいかに対応するかを明確にしない「曖昧戦略」を採ってきた。1972年のニクソン訪中以来、歴代米国政権がこの「曖昧戦略」によって、①中国の台湾侵攻、②台湾の独立宣言、を同時に抑止し、東アジアの現状を維持してきたことも否定できない。トランプ氏はこのことをどの程度理解しているだろうか。
米国のアジア専門家、とくに中国専門家の主流はこれまで台湾に関する「曖昧戦略」を強く支持してきたが、彼らの議論には一理も二理もある。1972年にヘンリー・キッシンジャー氏が考案して以来、米国政府が採ってきたこの伝統的政策はそれなりに機能してきたからだ。続いて、「曖昧戦略」のどこが悪いのかと反論する彼らの議論を紹介しよう。
「曖昧戦略」と「明確戦略」の最大の違い
・「曖昧戦略」が中台双方に対する米国の影響力を最大化する。このことは、ブッシュ政権時代の陳水扁政権との関係から明らかである。陳水扁政権は台湾独立を志向したが、米国はこれを抑えた。
・「明確戦略」を採用し、米国の支持を得た台湾の民進党が「台湾独立」を決断すれば、いったいどうするのか。
・米国が「明確戦略」を採れば、中国は台湾に対する非軍事的圧力を強める。
・そうなれば、中国は米軍が介入する前に、台湾を屈服させようとするだけである。
以上の主張には一貫性がある。しかし、中国の軍事能力の大幅な向上という新たな状況に対応できるのか、対中抑止にはいまやあまり効果がないのではないか、という問いには答えられない。「曖昧戦略」と「明確戦略」の最大の違いは、前者が「中国の目的は台湾独立阻止」だと考えるのに対し、後者は「中国は本気で台湾を併合する」という前提に立つことだ。