「高山植物の食害」以外はわからないことだらけ

静岡市は南アルプスのリニア工事に伴い、絶滅危惧種指定などに指定されている重要植物の移植、播種はしゅを実施した地域の調査を行っている。

2022年11月に発表した調査結果で、15種のうち9種で生育数が減少していることが判明、ニホンジカの食害が影響していることがわかった。

重要植物の移植、播種は、JR東海の作業員宿舎建設などに伴う環境改変を踏まえたもので、従来とほぼ同じ生育環境をつくって実施した。

標高2000メートル以上で高山植物を食べつくしたニホンジカは、リニア工事の基地となる3カ所の作業員宿舎やトンネル非常口のある標高約1000メートル前後の南アルプスの森林等で餌を求めて縄張りを拡大して、繁殖活動を行っているのだ。

静岡県は2000~3000メートル級の聖岳、三伏峠、荒川小屋など5カ所に防鹿柵の設置を行っている。ただ防鹿柵に遮断されて、その地域から離れたニホンジカがどこに行くのか、全くわかっていない。

お花畑を形成する高山植物の被害はわかっても、高度の低い樹林帯などでの食害などは全くわからない状況なのだ。

シカの増加も「自然環境変化の一部」とする見方も

何よりも、登山者たちが目にするだけのお花畑の復活だけを目指す自然環境保全は人間の都合を優先していると指摘されても仕方ない。

静岡県がニホンジカ被害の対策として駆除を行っているのは、伊豆と富士山麓地域のみである。小ジカを含めて毎年5万頭以上を駆除している。

静岡県提供
伊豆地域のニホンジカの集団

伊豆エリアなどのニホンジカはシイタケ、ミカン、ワサビなどを食べる害獣だが、南アルプスで高山植物を食べてしまっても県民生活への影響はないからだ。

静岡県は今年度、南アルプスで試験捕獲として、10頭の駆除を目標に立てている。

伊豆、富士山麓地域と違い、交通の不便な標高約3000メートルの山岳地域まで行って、ニホンジカを駆除してくれるハンターはほとんどいない。

また駆除した個体を地面に埋めるなどの面倒な処理もあり、試験捕獲にはあまりにも多額の費用が掛かる。

このニホンジカ捕獲が来年度以降、行われるのかどうか決まっていない。

明治期以前、ニホンジカにはニホンオオカミという天敵がいたが、人間によってオオカミが絶滅させられたあと、ニホンジカの天敵は人間以外いなくなった。

また2006年まで続いたメスジカの禁猟政策によって、ニホンジカが急増した。

専門家の間では、ニホンジカの増加も自然環境の変化と受けとめ、何らの対応をしないとする考え方もある。