本来の医薬品承認よりも有効性の基準が「緩い」

さて、それではどうしてこのような事態が起こってしまったのでしょうか。

もともと迅速承認制度は、有効性の期待される医薬品候補を患者さんの元へ迅速に届けるべく、米国(1992~)・日本(2017~)・欧州(2006~)で確立されました。このシステムは、ほとんど抗がん剤に対して適用されます。そして本制度では、より短期間で有効性を評価するために、全奏効割合(Overall Response Rate, ORR)や無増悪生存期間(Progression Free Survival, PFS)といった代用指標(代用エンドポイント)を用います。その結果、医薬品の有効性が「推定」されれば承認を受け、その物質は保険適用の受けた医薬品となります。

有効性が「推定」されればいいということは、誤解を恐れずに言うと、本来の医薬品承認で求められる有効性よりも、その基準が「緩い」ということです。

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肝心な「撤退の仕組み」が存在していない

そのためか、迅速承認制度で承認を受ける医薬品の多くは、①臨床試験に組み込まれる患者さんの総数が少なかったり、②特定の患者集団での研究が不足していたり、③単一非ランダム化試験に基づいた科学的な頑健性の弱いデータで承認を受けていたりと、科学的に検証が不十分な点が残ることが多くなります。つまり、迅速承認の時点では、「臨床的な利益」が必ずしも証明されていないのに承認を受けてしまう欠点があり、これが問題となるのです。

むやみやたらに承認してしまうようでは、「効果の疑わしい医薬品」まで承認してしまい、「国民医療費を無駄にしながら患者さんに全くベネフィットのない医薬品を投与する」といった状況が生じかねないので、安易に承認を与えてしまうことは危険です。こうした状況が生じている時間を最小限にするためにも、米国では撤退の仕組みが存在します。ところが日本の場合、「迅速に承認する」という入口の仕組みだけが導入されてしまっており、肝心な撤退の仕組みが存在しないのです。