抗がん剤の承認制度に求められる「国際的な規制の調和」
本研究で私たちは、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」23品⽬について精査しました。結果、それらの承認状況は国・地域によって異なっており、日本または欧州のいずれか(または両方)において、一部の抗がん剤が承認されたままとなっている状況を明らかにしました。
この事実は、①撤退を受けて、米国のがん患者さんが有効であるはずの医薬品にアクセスできなくなってしまっているか、②日本または欧州の患者さんが、臨床的なベネフィットのない医薬品を処方されてしまっているか、いずれかを示唆します。米国の規制当局が、市販後の確認試験を執り行ったうえで撤退を判断していることを考えると、②のシナリオの方がより事実を反映していると考えられます。
こうした地域による差を解消するためにも、抗がん剤の承認制度については、国際的な規制の調和が必要とされるでしょう。
「臨床的な利益が証明されていない医薬品」が使われ続けている
では、日本の医師や当局はこうした事実をどのように受け止め、どのような対策をとっていくことができるでしょうか。
今回、⽇本では特に、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」、すなわち効果の疑わしい抗がん剤が、⻑期間にわたって承認維持されている傾向があり、さらに⼀度承認された適応が撤回されたといった事例はありませんでした。
この結果を少し悲観的に解釈すると、⽇本では、臨床的な利益が証明されていない医薬品が使⽤され続けていることになります(同様のことが欧州でも言えます)。したがって、⽇本や欧州の規制当局には、臨床的な利益が不明な医薬品の再評価と撤回を検討する余地があると考えられるでしょう。少なくとも、当局は国や地域によって異なる承認状況となっている根拠をより明確に説明する必要があります。