ロールモデルの存在が人生を楽しく幸せなものへ導く
もちろん人口が少ない県ですから、メンバーになる人が少ないということはあるでしょう。
しかし、「それにしてもメンバー0人とはどういうわけだろうか?」「もしかしたら、鳥取の子どもたちの身近なところに、将来像を描くためのロールモデルが少なかったからではないか」と感じました。
そこで企画したのが、「中高生のためのハローワーク」でした。メンバーの小説家、作詞家、脚本家、評論家などさまざまな分野の達人をそろえ、県内中学生を対象に、無料で将来の夢を実現するための講習会=ハローワークを開催したのです。
子どもたちは、「どうやったらそういう仕事ができるようになるのか」と、興味津々で質問を浴びせていました。
子どもたちが人生で初めてロールモデルと出会う瞬間――生き生きとした嬉しそうな表情から、人生において、いかにロールモデルというものが大切なのかということを痛感した出来事でした。
その後も、オープンカレッジを行うたびに、このイベントは引き継がれています。
わたしたち大人も、あの鳥取の子どもたちと同じです。ロールモデルはさまざまな人に夢を与え、方向性を与え、才能を引き出す存在です。
生きていくうえで大いに刺激を受け、歩む道の目標や憧れの対象となる人を見つけることは、自身の充実にも幸福にもつながるのです。
「この分野には、どんな素敵な人がいるのだろうか」
わたしにとっての大切なロールモデルは、『「甘え」の構造』(弘文堂)で有名な精神分析家の土居健郎先生です。
先生は、欧米で基礎が築かれた精神分析を日本人にそのまま適用するのではなく、日本人に最適な形にアレンジするということを試み続けた偉大な学者です。
先生が活躍されていた時代の日本の精神医学界は、フロイトの学説をそのまま受け売りしているような状態でした。
それに異議を唱えたのが土居先生です。ご高齢になってもなお、意欲的に研究に邁進された先生の姿は、わたしにインパクトを与え続けました。
わたしは幸いなことに、人生の折々で重要なロールモデルに出会うことができました。学生時代に出会った小室直樹先生からは、肩書に頼らず、自分の思考で勝負するという生き方を学びました。
そのような経験からも「この分野には、どんな素敵な人がいるのだろうか」、そんなことにワクワクしながら生きるのは、とても楽しいことだと確信しています。