30年間培ってきた技術は必要とされる

とはいえ50代にもなって将来のことを不安に感じ、迷うのは「アホか」と言いたいです。50歳を過ぎてから、定年だ、老後だ、認知症が心配だ、と気にするくらいなら、いまの仕事を一生懸命やりなさい、と言いたいのです。

慶應義塾大学を創設した福沢諭吉の婿養子に、福沢桃介(1868〜1938年)という人がいました。桃介は相場師として株式投資で財を成し、その後は実業家として電力会社などを経営して、「電力王」とも呼ばれました。

その桃介が「憎まれて世を渡れ」と言っています。可愛がられる人は、その器の中でしか仕事ができません。憎まれるくらいでないと、大きな仕事ができないということです。

桃介が言うように、憎まれて世を渡るくらいの気持ちで、誰にも気兼ねもせず、自分で正しいと思ったことを最後までやり遂げてみてはどうでしょうか。居直って、定年まで仕事に取り組むべきではないでしょうか。

人生はいつでも分岐点です。50代まで無事に仕事を続けてこられたのは、いくつもの選択が決して間違っていなかったのです。

営業をしてきた人が、予約なしに一軒一軒を訪ね歩く「ドブ板営業」をやってきたとしましょう。それならばドブ板営業を突き詰めていけばいいのです。若い世代に、ドブ板営業のできる人は少ないはずです。

50代の人は、それまで30年くらい続けた仕事に自信をなくす必要もありません。いままでやってきたことを、そこからさらに突き詰め、職場で何か提案するくらいのことをしてもいいでしょう。そのほうが、世の中が活性化して、自分の頭も活性化されて認知症の心配もなくなります。

ソニーが99年に発売した自律型エンタテインメントロボットの「アイボ」はものすごく売れました。犬の姿で、本物のように触れ合うことができます。購入者に、お年寄りがけっこういるようです。修理する人がいなかったので、修理の仕事を始めた人がいました。修理依頼が舞い込み、お年寄りの方々が喜んでくれて、うれしく感じているそうです。

富士フイルムは、もともと写真フィルムのメーカーでした。感光材料の写真フィルムにはゼラチンが必須の素材で、人の皮膚(コラーゲン)にも大切なものです。

デジタルカメラの普及で写真フィルムの需要がなくなったとき、写真フィルムづくりの技術を持った人は、リストラされても不思議でなかったのです。しかしゼラチンを扱ってきた技術を生かすことで化粧品への展開を考えた人がいて、化粧品の開発・事業化につながっていきました。

また、写真フィルムはさまざまな素材を乳化分散させて作ります。こうした乳化分散の技術は現在、食品や化粧品業界でもよく使われるようになりました。