“戦争”は、河野氏の勝利に終わった。ワシントン・ポスト紙は7月、「日本のデジタル関連省庁は先月、フロッピーディスクとの戦いに勝利したと発表した」と報じている。

もっとも、日本だけが例外的にフロッピーを使っていたわけではない。2015年にはノルウェー医療界で、2016年にはアメリカの核開発プログラムで、それぞれフロッピーが使われていたと同紙は述べている。ボーイング747-400型機に至っては2020年まで、重要なアップデートをフロッピー経由でインストールしていたという。

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とはいえ、やはり同紙は、「それでも、日本の古めかしい技術への依存の長さは際立っている」と指摘する。

FAXはすでに「骨董品」…名刺のFAX番号がジョークのネタに

FAXが現役で使用されていることも、日本の生産性の停滞の象徴となっている。日本経済に詳しい経済学者のイェスパー・コール氏は、日本の労働生産性の低さについてウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「こんな昔ながらのジョークがあります」と切り出す。

「(ある人物が)日本の企業で働いていると、なぜ分かったのでしょうか? 答えは、『名刺を見ると、そこにFAX番号が載っていたから』です」

電子メールが浸透した今、欧米の先進国では、FAXはすでに骨董品の扱いだ。

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FAXと並び、印鑑(ハンコ)も独特な風習だ。古い時代には個人を証明する優秀な手法だったが、電子取引が増えた現在も、物理的な紙を印刷してそこに押印している。諸外国から観れば、電子署名などのテクノロジーが発達したいまも、昔ながらの形式にこだわっていると見えるようだ。

コール氏は、「日本人は非常に几帳面なのです」と指摘する。「ハンコが枠線に触れると無効になるため、書類を一から書き直さなければならないのです。これは日本のプロセス指向の美しさでもあり、同時に、むず痒い点でもあります」

なぜ効率化が遅れてしまったのか

FAXやフロッピーやつい近年まで現役で使われ、いまだ印鑑が求められる現状に、海外は首をかしげる。新幹線が主要都市を結び、公共のトイレにまで洗浄便座が普及しているほどの技術先進国・日本でなぜ、効率化が遅れているのか。

原因の一端として、「形式」の重視が変革の足かせになった可能性は否定できない。すでに浸透しているFAX連絡やフロッピーでの提出が「正規の」手続きである、との考えが現場に根付いており、転換の必要性を見失っていた可能性があるだろう。

また、テクノロジーの採用の遅さは、慎重さを追求しすぎるあまりの副作用だとする捉え方もあるようだ。カリフォルニア大学サンディエゴ校で日本ビジネスを教えるウルリケ・シェーデ教授は、ワシントン・ポスト紙に、「安全第一」の考え方が日本のモットーのようになっていると指摘する。

「(日本では)一般的に、物事が100%証明されないと展開できないのです」と彼女は言う。「ミスやデータ漏洩、データの紛失などは、すべて大きな代償を伴います。アメリカ人であれば、進歩のためであれば、そのようなコストを許容します。ですが、日本人はそうではないのです」