“コスパが悪い”結婚に結び付かない恋愛

バブル経済期から、結婚に結び付かない恋愛を楽しんでもかまわない、という意識が広がっていきます。関西大学の谷本奈穂教授は、「遊びとしての恋愛」と名付けました(谷本奈穂『恋愛の社会学 「遊び」とロマンティック・ラブの変容』)。

つまり、恋愛が結婚の手段から、そのもの自体を楽しむという目的に変わったのです。そして21世紀に入ると、その傾向が逆転し、結婚に結び付かない恋愛、男女交際は、時間やお金の無駄ではないか、つまりは“コスパ、タイパが悪い”ということで、恋愛は結婚の手段であるという意識が再度復活してきたのではないでしょうか。

今の若者が、結婚前の恋愛やセックスが「いけないこと」だからしないのではなく、単にコスパやタイパが悪いということで避けるようになった――これが私の見立てです。

私の説を先取りして示すと、図表1のようになります。これをもとに、日本の若者の恋愛状況の変化を説明してみましょう。

高校生のデート、キス、性交経験

先に引用した日本性教育協会の「青少年の性行動全国調査」の結果を考察していきます。この調査は、中高生、大学生を対象に、1974年からほぼ6年おきに行われているもので、当初から社会学者や教育学者が参加している定評のある大規模調査です(中学生の対象調査は1987年から)。

最新は、2023年に調査されてますが、残念ながら本稿執筆時点で公表されていないので、2017年までのデータで検討していきます(今秋公表予定)。

性行動に関する基本的なデータとして、中高大学生のデート経験、キス経験、性交経験のデータがあります。中高大ごとに傾向は多少違いますが、今回は高校生のデータを、少し加工した形(図表2)でお見せします(〈日本性教育協会/研究事業について/第8回青少年の性行動調査〉参照)。

調査データは、経験率(1回でもそれを経験した率)です。

まず、高校生のデート経験率は、今から50年前の1974年は、男性53.6%、女性57.5%でした。以降、バブル経済期にかけてはやや減少しますが、それでも、男性4割、女性5割はデートを経験していた。それから持ち直し、男女とも5割から6割くらいの高校生がデートを経験していたのです。

しかし、キス経験と性交経験は、デートとは違った動きを示します。2005年調査まで、経験率は一貫して増え続け、2011年からむしろ低下します。

1974年には、キス経験率男子26.0%、女子21.8%、性交経験率10.2%、女子5.5%だったものが、2005年には、キス経験率男子48.4%、女子52.2%、性交経験率男子26.6%、女子30.3%となります。特に、女子の経験率が男子を上回るのが注目に値します(今の35歳前後の人たちです)。