マスターベーションは繁殖の成功率を高められるか?

先行研究では、ウミイグアナの繁殖のシステムに巧妙な仕組みがあることが示されている。

ウミイグアナは、体の大きなオスがメスを独占し、小さなオスがメスと交尾しているのを見つけては、彼らを物理的に引き離してしまう。これを避けるために、小さなオスはマスターベーションを行い、精液をペニスの先端にある保存袋に溜めておく。そして次に交尾の機会があると、すぐさまその準備された精液を取り出すのだ。驚くべきことに、この方法によって小さなオスは受精の成功率を41%向上させている。

霊長類には、ウミイグアナのような精液を保存する袋はない。しかし、性交前に興奮を高めることは、依然として、序列の最上位のオスに性交を中断される可能性が高い低位のオスにとっては効果的な戦略である。なぜなら、性交前にオーガズムに近づくことで、交尾の機会があればすぐさま射精することができるからだ。

また、オスのマスターベーションは、精子の状態にも良い影響を及ぼす。つまり、射精をすることで、新たに新鮮で高品質な精子を補充して精子の状態を活発に保ち、これにより他のオスの精子に対して優位に立つことができる。

私たちの研究は、マスターベーションによってオスの繁殖の成功率が高まるという理論を裏付けたが、メスについては言及していない。オス同士での競争が激しい交尾システムは、マスターベーションと共に進化してきた。

先行研究では、メスの興奮が膣内をアルカリ性にして、より精子を受け入れやすい環境を作り出すことが示された。膣粘液は機能の低い精子をフィルターにかけ、品質が高い精液を子宮へと早く導く。オーガズムによる膣の収縮もまた、精子の子宮への道のりを手助けするのに役立つ。

性器の手入れとしてのマスターベーション

ケープアラゲジリスのオスは性交後にマスターベーションを行い、その行為はパートナーが多いほど盛んになる。パートナーが多くの性交を経験している場合、さらに多くのマスターベーションを行う。

オスの性交後のマスターベーションは、性器の洗浄の一形態だと考えられている。しかし、メスのマスターベーションは性感染症予防のために進化したとは考えにくい。なぜなら、興奮とともに膣内のpHが上昇してアルカリ性に近づくことは、精子だけでなく病原菌にも好ましい環境を与えることになるからだ。

私たちの研究は、オスにとってのマスターベーションが、性感染症のリスクの高まりとともに病原菌を避けるための戦略として進化し、特に性感染症のリスクが高い種においては、一度進化するとそのシステムが維持されることを裏付けている。

では、メスのマスターベーションは?

一見すると、私たちのデータは、メスのマスターベーションがオスに比べて少ないことを示しているように思える。実際、メスのマスターベーションの進化的機能を示す証拠は見つからなかった。

しかし私には、これらの結果が実態を反映しているとは思えない。メスの興奮やマスターベーションは、オスに比べてはるかに目立たないことがその理由の一部。だがこれは、科学界全般の傾向も反映しているのだ。つまり、メスの性行動や解剖学に関する情報が驚くほど不足しているのである。

これまではオスに対する研究が優先され、メスは後回しにされてきた。オスに関する研究は、科学界の努力の蓄積から恩恵を受けている。私たちはメスとオスの両方におけるマスターベーションの進化を探求しようとしたが、メスに関しては十分なデータを収集できず分析が難航した。

私たちの研究は、マスターベーションは多くの異なる種において行動範囲の正常な一部であることを強調する。それはメスにもオスにも、野生でも飼育下でも見られる行動だ。マスターベーションを「不自然だ」「間違っている」などと非難する人々は、霊長類の同胞たちから自然とは何かを学ぶべきだろう。

(翻訳:中川弘子)

Matilda Brindle, Associate Researcher, Department of Anthropology, UCL

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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