spanking the monkey(猿を叩く)やpetting the poodle(プードルを撫でる)、 pulling the python(ニシキヘビを引っ張る)は、マスターベーションを遠回しに表現する際に使われる英語の慣用句だが、私たちが想像する以上に事実に近いものでもある。
動物界でもマスターベーション――セルフプレジャーとも呼ばれる――は一般的で、例えば犬は無意識のうちにぬいぐるみとセックスするし、イルカは頭のなくなった魚にペニスを突き刺したりする(本当である)。このように、動物のマスターベーションは多種多様なのだ。
私たち研究チームは新しい論文で、霊長類のマスターベーションは繁殖の可能性を高め、また性感染症を避けることにも役立つという仮説を検証した。
人間も属する霊長類に焦点を当てることにした理由は、彼らのマスターベーションの創造性にある。もしも動物界において、最も創造的な自慰行為を行う生物に賞が与えられるとすれば、霊長類が勝つだろう。
例えば、若いチンパンジーは噛んだ果物の欠片でオリジナルのセックストイを作り、インドネシアのスラウェシ島にいるクロザルのメスは、お尻を叩きながら指を膣に何度も挿入する。ある研究では、メスが最も妊娠しやすい時期に出る自然な腫れを再現したものをメスのチャクマヒヒに取り付けたところ、オスのチャクマヒヒは、その大きな人工のお尻を見ながらマスターベーションを行った。
マスターベーションがこれほど一般的な行動であるにもかかわらず、この分野の研究はほとんどない。そのため私は、小さい頃には予想もしていなかったキャリアとして、自分の博士課程をマスターベーションの進化の研究に費やすことにしたのだ。
マスターベーションは、進化論的には混乱をもたらすものと考えられる。なぜなら定義上は、生殖の相手がいらない行為であり、生存に役立つ筋書きとして考えるのは難しいからだ。
多くの人はこれを、異常で逸脱した行動や、性的興奮の副産物として見過ごしてきた。マスターベーションは時間とエネルギーの両面でコストのかかるものでもある。
霊長類全体のマスターベーションを概観する
私たちはまず、霊長類全体において「マスターベーションをする動物」をリストアップすることから始めた。
公開されている研究から見つけたすべての詳細情報を集め、足りない情報は霊長類がいる現場で働いたことがある同僚に、アンケートに協力してもらった。彼らは少し驚いた様子ではあったが、丁寧に回答を記入してくれた。
異なる種の動物たちが互いにどのように関連しているかを知ると、生存種のデータを比較してどのように生物の特徴が進化してきたかを推論できる。そのため私たちは、大きな家系図のような形で、異なる霊長類の種同士におけるマスターベーションの行為の有無について、新たなデータを用いて進化上での関係を描き出した。
いくつかの分析では、交尾のシステムや、その種の間での性感染症の蔓延度といった他の特性に関する情報を付け加えた。
その結果、すべての年齢層において、メスとオスの両方において、そして野生か飼育下かにかかわらず、マスターベーションが行われていることが分かった。
マスターベーションは霊長類内では古くから行われてきた行為であり、サルや類人猿の種が進化の途中で取り入れた習慣である可能性は低く、人間を含むすべてのサルや類人猿の祖先がマスターベーションを行っていたことを発見したのだ。