弁護士が見た「最も印象に残ったシーン」

尊属殺人罪はなくなりましたが、私自身が現在、殺人について問題に感じているのは、「親による子殺し」の刑がとても軽いことです。どのような理由があっても殺人は許されるべきではありませんが、その中でも、無抵抗で自分を守る術をまったく知らない子どもが殺されてしまうことは、他の殺人よりも重く処罰されるべきです。

このような事件は後を絶たず、「殺意はなかった」という理由で、より軽い傷害致死罪で処罰されるケースも多くみられます。子どもは、軽い暴行でも亡くなってしまいます。一般的な大人であれば、「子どもは軽い暴力でも死んでしまうかもしれない」ということはわかるはずです。それが、「暴行が軽かった」などという理由で、殺意がなかったということになり、傷害致死罪にしかならないのです。

尊属殺人罪とは逆の、「子どもを死なせる罪」という重い類型が刑法に定められてもいいのではないかと思います。

話を『虎に翼』に戻して、弁護士として最も印象に残ったシーンを紹介します。寅子の学生時代の勉強仲間である梅子さんは、夫が亡くなった後、長男から相続放棄を迫られました。旧民法では、妻に相続分はなく、すべて長男が相続することになっていたのですが、戦後の改正民法では、配偶者の相続分が認められていました。

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「妻は姑の世話をする必要はない」と宣言

梅子さんは法律を勉強していましたから、そのことを知っていたようで、「相続放棄はしない」といったんは主張します。また、姑から「今後も世話をしてほしい」と言われていましたが、梅子さんは改正民法877条1項「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」という条文を読み上げ、自分には姑の面倒をみる義務がないことを宣言しました。

現在でも、「夫や夫のきょうだいは親の面倒を見ようとせず、長男の嫁である自分が長年介護を押し付けられている」という相談は少なくありません。その方に対し、「長男の嫁に義父母を介護する義務はないです」と言うと、とても驚き、悲しまれます。いまだに「長男の嫁」という呪縛が生きていることに暗澹たる気持ちにさせられます。自分の身を守るためには、やはり法律を知っていることはとても重要だと改めて感じます。

また、梅子さんは婚姻姓から旧姓に戻っているようです。「復氏届」を役所に提出したと思われます。配偶者が死亡しても、何もしなければ婚姻姓のままなのですが、旧姓に戻りたい場合には、「復氏届」を役所に出すことで旧姓に戻ることができます(民法751条1項、戸籍法95条)。