カメラ付き携帯電話を作ると、端末が大きくなるという課題

iモードのようなサービスでもなければ、音楽プレーヤーでもない。写真を撮って送れる携帯電話こそが「メールのJ-PHONE」の進化形であり、新しい武器になる。それこそが、高尾がたどり着いた答えだった。

ところが、カメラ付き携帯電話という高尾のアイデアは、役員会で猛反対にあう。反対されるのには理由があった。

実はこの年、カメラ付き携帯電話に似た端末が、すでに2つ発売されていた。京セラが開発したカメラ付きPHSと、ケーブルで携帯電話に接続して使う三菱電機製の外付けカメラだ。だが、どちらも売れ行きはかんばしくなかった。各メーカーが端末の小型軽量化でしのぎを削る中、カメラを内蔵すると、どうしても端末のサイズが大きくなってしまう。カメラを付けても売れないと上層部が考えるのも、無理はなかった。

同時にシャープからもカメラ内蔵の端末を提案してきた

それでも高尾は譲らなかった。「必ず小さくしてみせます」と啖呵たんかを切って、なんとかゴーサインを取り付けた。しかし、メーカー2社に開発を打診してみても、「先に出た2機種が売れていないから」と立て続けに断られてしまう。

世界初のカメラ内蔵携帯電話J-SH401(写真提供=「ケータイWatch」)

そんな時、高尾のもとに、広島から新しい端末の企画書を携えて、シャープの植松がやってきた。2000(平成12)年春のことだった。

「次はこんな機種を考えているんです」

そう言って植松が差し出したモックアップ(模型)を見て、高尾は驚いた。そこにはカメラが付いていた。

「同じ事を考えている人たちがいて、すごく嬉しかったですね。やっぱりシャープさんと組んだ自分の判断は間違ってなかったんだと思いました」

その瞬間の驚きと喜びを、高尾は今でも覚えている。しかし喜んだのは一瞬で、その場ですぐに植松にこう頼み込んだ。

「絶対に大きさを変えずに、カメラを入れ込んでほしい」

シャープは、J-PHONEと共同開発した2つ目の端末に、カラー液晶を搭載していた。カメラ付き携帯電話は、そのカラー液晶を生かす次の一手としてたどり着いたアイデアだった。小型カメラを内蔵した携帯情報端末をすでに商品化していたこともあり、開発する自信はあった。