IMFリンクを撤廃すると何が必要になるか

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アジアにおける金融協力

IMFリンクを撤廃するとなると、ASEAN+3の通貨当局が、IMFに頼ることなく、自分たちの判断で通貨スワップ協定を発動することを意思決定する体制を構築しなければならない。それは、日常的に各国経済が通貨危機に陥りそうなのか、実際に陥ったのか、そして、その通貨危機は国際収支危機なのか、国際流動性危機なのか、を監視する体制を構築する必要がある。前述したように、同時に、通貨危機を予防するために、実効的なサーベイランスも日常的に実施することも必要となる。

このようなサーベイランスによって通貨危機防止に努めるとともに、CMIMの下で通貨スワップ協定のネットワークを発展させて、外貨準備のプール化による金融支援規模の充実および統一、集団的な意思決定による迅速化によって、東アジアにおける通貨危機管理体制がより実効的となる。その際に、東アジア(ASEAN+日中韓)全体のGDPシェアが80%強を占める日中韓を中心として東アジアにおける地域通貨協力を強化していくことが、「政冷経冷」の状況にあっても、必要である。

CMIからIMFリンクを撤廃することを可能とするために、通貨スワップ協定の実施および域内為替相場のサーベイランス、さらには急激な資本流出入に対する監視を実施するための常設の機関を設立することが必要となる。さらに、ギリシャ財政危機とユーロの暴落を経験して、財政規律の喪失のなかでの財政赤字拡大が通貨価値を不安定化することが改めて明らかとなった。財政規律の確立と財政収支の監視がCMIの下でも重要である。

その目的のために設立されたAMROの運営においては、日中韓が協調的主導を取ることが望まれる。とりわけ、常設の機関としてAMROが、域内為替相場の動向や急激な資本移動を観察・分析するためのキャパシティを構築することが必要である。日中韓が協調して、ASEAN+3財務大臣会議を主導して、AMROの充実を図っていくことが望まれる。

CMIにおける多国間の通貨スワップ協定と並行して、05年5月に日本銀行と韓国銀行との間の二国間通貨スワップ協定(円・ウォン建てで30億米ドル相当)が取り決められ、07年7月および10年6月に期限延長してきた(次の期限は13年7月)。さらに、11年10月には、12年10月末までの時限措置として日韓の二国間通貨スワップ協定の上限を30億米ドル相当から300億米ドル相当に増額した。なお、時限的な増額部分については、日本銀行によれば、「両国の金融市場が安定し、マクロ経済の状況も健全であるとの認識の下、日韓両国は日韓通貨スワップの増額部分の延長は必要がないとの結論に至り」、12年10月31日に「予定通りに終了」した。

この日韓二国間通貨スワップ協定は、世界金融危機時におけるウォンの暴落に対して実施されなかったものの、このような通貨スワップ協定が締結されたことが、韓国政府や韓国銀行の外貨準備残高が減少してきても、日本銀行がこれらの外貨準備残高のある程度の水準を維持することを保証していることを意味することから、通貨スワップ協定それ自体が通貨危機、あるいは通貨の暴落を止める効果を持つという見方もある。したがって、「政冷経冷」のなかにあっても日本と中国との間の通貨協力が維持されているように、日本と韓国の間においても通貨スワップ協定を引き続き、強化することが望まれる。その強化には、相互のマクロ経済と銀行部門の健全性に対する日常的なサーベイランスのほか、急激な資本流出入を監視することも為替相場の急激な変化を監視するためには必要である。

(図版作成=平良 徹 写真=PANA)
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