試合前にみんなで綿密なシミュレーションを重ねる
すべての意見を聞いた後で、「このオーダーは面白いから、今日使わせてください」と言うこともあれば、「すみません、今日はやっぱり自分の案でいかせてください」と言うこともあります。ただ後者の場合も、最初から「私のやり方でやってください」と押し付けていた時期とは違い、みんなが納得して当日の試合に向かえている雰囲気を感じられるようになりました。
ピッチャーの起用についても同様です。
ピッチャーには、先発、中継ぎ、ワンポイント、勝ちパターンのリリーフなど、あらかじめ割り当てられている役割がありますが、試合展開の中で現実に「誰をマウンドに送るか」はシビアな判断が求められます。
試合展開は、1点差で負けているとき、同点のとき、1点差で勝っているとき、大量得点差で負けているとき、大量得点差で勝っているときといったように多岐にわたり、同じ中継ぎピッチャーでも「どの中継ぎを起用するか」には複数の選択肢があります。
その起用法も、スタメン・打順と同じように、試合前ヘッドコーチやピッチングコーチと話し合って、ある程度固めておくようにしました。
試合前にみんなで綿密にシミュレーションを重ねることで、試合中に「想定外の事態」はなかなか起きなくなりました。「三人寄れば文殊の知恵」とはよく言ったものです。
監督とは「決める人間」ではなく「準備する人間」
スタメンや打順、投手起用について、コーチと合議しながら決めるようになり、私は「監督とは、『決める人間』じゃないんだな」と思うようになりました。
監督とは「準備する人間」だ。そう考えるようになったのです。
みんなが意見を言い合える場をつくる。原案をつくる。根拠を聞かれたときに説明できるよう映像とデータをチェックしておく。自分の考えにはなかった素晴らしいアイデアがコーチから出てくることに期待する。これらひとつひとつの「準備」こそが、自分に求められていることなのだ。そう思ったとき、「監督とは中間管理職である」という考えは、実はそんなに間違っていないのではないかと自信を深めるようになりました。
中間管理職とはきっと、様々な部署や役職の「中間」に立ち、周りのみんなが機能するよう、常に準備する人間なのです。
スタメンと打順を合議で決めるようになり、私はバッティングコーチの観察眼の鋭さを心強く思うようになりました。