「世界への支援」がいずれ日本へ還元される

「ブラジルにはCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の意識が高い会社が多いことが資金調達を可能にしています」とカストロさんは語る。

CSRとは企業が利潤を追求するだけでなく、社会に与える影響に責任を持ち、自発的な活動としてより良い社会の構築に参画する活動だ。

「企業のCSRと慈善団体の橋渡しを行う専門のコンサルタントもあります。あしながブラジルもコンサルタントと契約することで企業からの資金調達ができているのです」

日本ではコロナと物価高により、奨学金申請者が急増したことで育英会が資金不足にあるという報道もあった。そんななか「外国人を支援する余裕はあるのか?」と疑問視する声が上がりそうだが、近い将来に資金を日本に還元することを視野に入れたブラジル法人の仕組みを知れば、世界へのネットワークの拡大こそが、母体である育英会の持続可能性を高めるのだと合点がいく。

「あしながの支援活動の基本は“Pay it forward(恩送り)”なんです」とカストロさん。

恩送りとは、誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送ることによって善意の輪を広げることだ。その輪が世界に広がることによって、国のおかれた経済状況に左右されない強固な慈善活動が築ける。

アフリカ人奨学生が胸に秘める「ココロザシ」

育英会は、国籍にかかわらず、遺児の奨学生に対して、自らの成長と社会への貢献を志として持つことを指導している。アフリカ人奨学生も皆、日本語の「ココロザシ」を胸に、出身国の発展に寄与することを将来の大きな夢としている。

あしながブラジル第3期奨学生でアンゴラ出身のアルフレド・ムエネコンゴ・カメイアさん(24)は、昨年末にサンパウロ市内のマッケンジー大学経営学部を卒業し、今年8月からポルトガルのビジネススクールCatólica Lisbon School of Business & Economics修士課程への進学のためにポルトガルに旅立ったばかりだ。カメイアさんは留学先がブラジルでよかったと旅立つ前に振り返ってくれた。

筆者撮影
志高く海外で大きく成長し、アンゴラの発展に寄与したいと語るアルフレド・ムエネコンゴ・カメイアさん
写真=アルフレド・ムエネコンゴ・カメイアさん提供
出身のアンゴラ・ウアンボ市の高校にて、右がカメイアさん。2013年撮影

「欧米の国々では留学生の企業研修が認められていない一方、ブラジルではそれがOKなんです。経営を学ぶ上で実務経験が大切なことはもとより、一流のビジネスパーソンを友人に持てたこともとても良かった」

経営学を夜学で学んだカメイアさんは、日中はKPMG、イタウ銀行、クレディ・スイス、モルガン・スタンレーといった名だたる金融・コンサルティングの一流企業を研修で渡り歩き、ポルトガル進学までの間はアナリストとしてシティバンクに勤めた。ポルトガル進学の学費や生活費は、これまでサンパウロで貯めた研修補助金と研修先からの援助が元手だそうだ。