虚飾の世界からの転落

森山さんは高校卒業後、大手化粧品メーカーに入社し、美容部員として働き始める。

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「職業柄、美意識が高い集団に身を置き、最先端のメイクやファッションに身を包んだ先輩たちはキラキラでかっこ良くて、若かった私はすぐに影響を受けました。お給料が出れば洋服や靴を爆買いし、ボーナスが出るとハイブランドのバッグを入手。当時はノルマもあり、売り上げ額に達しない日は自ら高級シリーズを購入し、数字を作っていました。今にして思えば、先輩たちも借金していたのだと思います」

森山さんはカードのキャッシングに手を出し始め、それでも足りなくなると、複数の消費者金融からも借りるようになった。

当時19歳の森山さんには、高校生の時から交際していた同級生の彼がいた。森山さんは彼に、給料やボーナスで、スーツや下着、食材や日用品などを買い与えていた。

そんな彼は翌年に東京へ異動になり、遠距離恋愛に。彼に会いに行く旅費もホテル代も食事代も彼は一銭も出してくれず、森山さんは全て借金で賄った。

同じ頃、森山さんはディスコ(クラブ)にハマり、夜な夜な繰り出しては、ストレス発散と現実逃避の日々に明け暮れる。やがて森山さんは、借金やノルマによるストレスでメンタルをやられ、4年で化粧品会社を退職。

高校の頃から交際していた彼には、何度も浮気をされてはよりを戻していたが、同じ頃、ついに完全に振られてしまう。

心も体もボロボロになった森山さんには、

・消費者金融2件
・信販会社1社
・カードのキャッシング満額
・カードも満額
・矯正下着のローン

合計230万円の借金だけが残り、絶望した森山さんは、過食や大量のアルコール摂取を繰り返すように。23歳になる直前のことだった。

父親の会社での出会い

森山さんは高校卒業後、「一人暮らしをしたい」と言ったが、「するなら2度と敷居をまたがせない」と父親から脅されたため、渋々実家から仕事に通っていた。そのため膨大な借金を抱えても、寝る場所と食べるものには事欠かなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。

しばらくして森山さんは、心療内科を受診すると「不安症候群」との診断を受け、精神安定剤を処方される。帰宅して母親に伝えると、「気持ちが弱いだけだ」と冷たくあしらわれた。

化粧品会社退職後に実家でただ休養している森山さんのことが気に入らない母親は、徐々にイライラし始める。そして3カ月後、そんな不機嫌な母親と接し続けることに限界を感じた父親は、森山さんに、自分が長年勤めている会社でのアルバイトを勧める。自分が家にいることでイライラしっぱなしの母親が怖かった森山さんは、二つ返事で受け入れた。

そんなある日、仕事から帰宅すると、母親が言った。

「一体、いくらあるの?」

「怒ったような、呆れたような口調だったと思います。『あー、バレた』と思うと同時に『これで苦しみも終わる』と思いました」

母親は勝手に森山さんの部屋へ入り、森山さんの借金返済関係の書類を見つけたらしい。数年前、薬物依存症で逮捕されたことのある俳優が、逮捕される瞬間、「ありがとうございます」と言ったという話は有名だが、「これで苦しみも終わる」と思った森山さんも、この言葉から買い物依存症だったことがわかる。

借金は、全額両親が肩代わりしてくれることになった。

翌年、女性ばかりのきらびやかな世界で働いてきた森山さんは、男性中心の建築コンサル会社の空気や仕事が合わず、退職。その後は就職活動の末に、道内の地域開発に関わる会社に契約社員として採用された。

同じ頃、父親と同じ会社で働いていたときに知り合った3歳上の社員の男性と交際が始まる。男性は教員になる夢を叶えるために会社を辞職し、教員採用試験の勉強をしていた。そして2年後、見事合格すると、森山さん26歳、夫29歳で結婚した。