問題の解決にすばらしい発明が必要とはかぎらない
もっとも発明が必要とされている分野はどこか。富裕国に暮らす10億の人々と、生きていくのがやっとの毎日を送り、感染症の流行がたびたび起こり、早死にする人が多いために平均余命が短い国で暮らしている30億以上の人々のあいだにある顕著な格差の解消こそ、いま、もっとも必要とされていることだろう。
生命維持に欠かせない水、食料、エネルギーを確保し、物質的な必要を満たすこと、それが先決である。また、もっと安価で、場所をとらず、効率のいい水処理技術を開発し、ほぼ完全な水のリサイクル化を実現しなければならないし、海水淡水化プラントも増やさなければならない。かたや農業の分野では、10億人近い栄養不良の人々の大半が暮らす国々で、収穫量を増やさなければならない。
世界人口の水と食料の需要を満たすには、目をみはるばかりのすばらしい発明が必要なわけではなく、水や食料を必要としている人々のところに届け、そのコストを削減する決定的なイノベーションが必要となる。同じことは電気の普及についても、一次エネルギー消費量の増加についても当てはまる。
望ましくない、あるいは屈辱的な現実を改善するには、なにも輝かしい発明など要らない。そうではなく、すでによく知られている信頼の置ける手法・技術・手順を、決然と広めていくしかないのだ。それは発明に過剰なまでの期待を寄せ、奇跡のようなブレイクスルーが起こるのを待つよりよほどいい。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
コメントby SERENDIP
発明とイノベーションは、同義に使われることも多いが、著者はイノベーションを「新たな材料、製品、プロセス、アイデアを取り入れ、習得し、活用する過程」と定義し、明確に区別している。あえて単純化して言えば、発明には「集中思考」が、イノベーションには「拡散思考」が有効なのではないだろうか。拡散思考では、自由で柔軟な頭の働きが必要となるが、その際に、集中思考の成果である発明にこだわりすぎると、拡散の範囲が狭まってしまい、「イノベーションの失敗」に結びつくことにもなる。本文の後半にもあるように、拡散の結果、「発明は必要ない」という結論に至ることもありうる。集中と拡散を区別することが、意外に重要なのかもしれない。
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