仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのはバーツラフ・シュミル著、栗木さつき訳『Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』(河出書房新社)――。
宇宙から見た地球
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イントロダクション

企業活動にとっての「イノベーション」の重要性は言を俟たない。今日では、気候変動をはじめとする地球的課題を解決し、サステナブルな未来を創造するためのイノベーションにも期待が集まっている。

だが、歴史を振り返ると、優れた「発明」がありながらイノベーションに失敗した例が少なくないようだ。

本書では、エネルギー、環境など世界の諸問題について学際的研究を行い、一般書のベストセラーもある著者が、テクノロジーの発明と歴史的背景を紐解きながら、その数々の失敗や誤算を分析。発明とイノベーションのあるべき姿を探る。発明とイノベーションが大成功を収め、現代文明に貢献した例も多数あることを前提とした上で、「イノベーションの失敗」の例を「歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明」「主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明」「待ちわびているのに、いまだに実現されない発明」の3カテゴリーに分けて論じている。

ダイジェストでは「歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明」の例として「フロンガス」を主に取り上げた。

著者はマニトバ大学特別栄誉教授、カナダ王立協会フェロー。『エネルギーの人類史』(上下巻、青土社)、『Numbers Don't Lie』(NHK出版)などの著書がある。

1.発明(インベンション)とイノベーション――その長い歴史と現代の狂騒
2.歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明
3.主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明
4.待ちわびているのに、いまだに実現されない発明
5.テクノロジー楽観主義、誇大な謳い文句、現実的な期待

冷蔵庫や冷凍庫に不可欠な「冷媒」

1834年、アメリカの機械技師ジェイコブ・パーキンスが揮発性液体エチルエーテルを冷媒とした冷凍機の特許を取得した。冷凍や冷却のサイクルには圧縮と膨張を繰り返す冷媒が不可欠だが、この頃にはまだ完璧な冷媒が存在しなかった。理想の冷媒は不燃性、無毒、不活性といった特徴をもち、たとえ破損したダクトや故障したコンプレッサーから漏れたとしても、発火したり、人間を窒息させたり、有害物質を吸い込ませたり、ほかの化合物と結合したりしない必要がある。

1915年、アルフレッド・メロウズは自身にとって初の冷蔵庫を設計した。1918年、彼の会社はGM創業者ウィリアム・デュラントに買収され、その後GMに売却されていた。GM傘下となったこの企業はフリッジデール社と名を改めたものの、冷蔵庫の冷媒に二酸化硫黄を使用していたため、健康被害をもたらす懸念があった。