買い物難民は大都市の周辺部にも存在している

交通弱者と言えば、地方で増えつつある「買物難民」≒足がなくて買物に行けない高齢者が急速に増加しつつあることを思い出される方もいるだろう。公共交通機関が衰退し、生活をクルマに依存した地方においては、免許返納によって買物が困難になる高齢者が増えており、特に生鮮品を買いに行くのに苦労する人はかなり多くなっている。行政においても大きな社会問題として認識されており、移動スーパーや買い物移動手段のサポートなどさまざまな支援策、補助金なども用意されている。(ご参考:農水省 食料アクセス(買物困難者等)ポータルサイト)ただ、足のない高齢者の増加が進行しており、なかなか改善するまでには至ってはいないようだ。

ここで意外なのは、買物難民の数だけで言えば、地方だけではなく、大都市の周辺部にも、ほぼ同数存在している、ということである。大都市の方がスーパーなども多く、交通の便もいいのではあるが、スーパーが幹線道路沿いの住宅地からは離れた、公共交通では行きにくい場所にあったりする。また郊外の高齢化した団地などでは、近くのスーパーが幹線道路沿いの店に負けて、閉店してしまうことも多くなっている。農林水産政策研究所のデータによれば、買物難民の人口は地方に490万人となっているが、三大都市圏エリアにも414万人いるとされる。大都市圏においても、この問題はかなり悩ましい話なのである。(図表6)

農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」表1より

まいばすが「買い物難民問題改善」に貢献している

農林水産政策研究所は2020年と2015年のデータを比較して、買物難民が増えた県、減った県というのも示していたが、東京都は1割ほど減少し改善したとされている。その理由としてミニスーパーの増加ということが挙げられており、これには、まいばすの貢献がかなりあったものと推察される。同様に高齢者人口が急増しつつある神奈川県においても、微増で抑えられており、これにもまいばすの貢献は効いている。まいばすが、今後、周辺地へも拡大していけば、首都圏における買物難民問題解決のひとつの答えにはなるかもしれない。

コンビニにおいても、セブンイレブンによる生鮮品を備えた新業態SIPストアの実験が始まり、ミニストップによる生鮮の品添え強化といった取組も報じられている。生鮮を充実したコンビニが増えてくることになれば、大都市周辺だけではなく、地方、郊外においての買物難民問題を緩和する可能性も見出せるかもしれない。市場が飽和して、新たな店舗の形を模索しつつあるコンビニ業界は、ミニスーパーと近い形のフォーマットを開発する方向に動きつつある。また、まいばすの成功をみて、スーパー業界でも、ミニスーパーを展開しようとする動きは少しずつだが増えている。こうした民間の生き残り戦略が、結果として買物難民という大きな社会問題解決の一助となることに大いに期待したい。

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