男性も含めた「格差問題」になっている
ところが、今回の「子持ち様」には働く女性だけでなく、家庭や子育てを優先しながら働く男性のニュアンスもある。
現代の職場において、そして現代の子育て世代において、それだけ家族や子育てを重要視し積極的に関わるという人生の選択をしている男性が、これまでの日本社会とは異なり多数出現していることの表れだ。背景には、男性社員の育休取得促進や、コロナ禍で加速したリモートワークの広がりなど、働き方の多様化があるだろう。
そもそもいま、女性よりも特に男性にとってこそ、結婚できる、子どもを持つことができる、ということは重大な格差問題でもある。さらに妻も仕事を持っている、自分や妻が育休設定のある組織に所属している、なおかつ時短勤務やリモートワークが可能で働き方に余白がある、などというホワイトな環境は、もはや「恵まれし者の持ち物」であることに、社会はなんとなく気づいているのではないか。
「子持ち様」という呼び名は、ホワイト環境の恩恵を享受する条件にない社員側からの怨嗟。子育てか仕事か、のいわゆるワークライフバランス問題における摩擦が、2020年代はようやく男女共通のものとなってネットに出現したのである。もちろんそのシワ寄せに組織の側が気づき、人員や待遇面でフォローできればいいのだが、中小などホワイトな制度を敷くことで精一杯の企業ではそこまでの余裕がなく、こういった声が上がる。
第3次ベビーブームは起こらなかった
少子化の加速が叫ばれ、岸田政権が「異次元の少子化対策」とアクセルを踏み、官民で少子化対策にエネルギーが注ぎ込まれる中、出生率などの話題が出るたびに疎外感や「産まないこと/産まなかったことを責められている」との感想を抱いている人たちがいるという。
起こらなかった第3次ベビーブーム。その主役となるはずだった、現在アラフィフの団塊ジュニア女性には、そもそも子どもに興味がなく仕事をしたかったため積極的に産まなかったと語る人もいるが、90年代から10年代にかけての日本社会におけるさまざまな人生の帰結として「産みたかったけれど産めなかった」と明かす人も多い。
出産子育てを選ぶことは退職とほぼ同義だった。あるいは子育てしながら働き続けるにしても、専業主婦をよしとする価値観のもとでは、わがままな母親であるとされた。キャリアは子どもを産まない場合よりも明らかにスローダウン。子どもを産むことは、働く女性の人生に負の評価を生みがちだった。