各国の“民主主義”が債務の増加をもたらしている
各国のコロナ関連の財政支援は終了したものの、経済対策やエネルギー価格急騰への対処を目的に各国とも債務が高止まりしている状況だ。
新興国と先進国の債務は、対GDP比で200%前後になっている(図表2)。具体的には、2022年時点で新興国が191.2%、先進国が277.9%、世界全体では238.1%だ。コロナ禍の収束にともなって債務は縮小しているものの、依然として高い水準にあることがわかる。債務の持続可能性が引き続き懸念材料となっているのだ。
また、公的債務と民間債務もともに増えている(図表3)。
公的債務はGDP比で92.4%だが、民間債務のほうはGDP比145.7%と非常に高い。どちらも高止まりしていると言ってもいい。これは次の世代が返せるような状態ではなく、この問題が金融危機のトリガーになる可能性がある。
問題は、急速なインフレにもかかわらず、債務が高止まりしていることだ。コロナ関連の財政支援は終了したものの、食料・エネルギー価格高騰への対処を目的に、各国政府が支出を拡大しているのである。
確かに、債務の増加は“民主主義”がもたらす現象の一つでもある。
国民から選ばれた政府は、国民にバラマキをすること、つまり将来から借金をすることによって債務を増加させ、経済を動かしている。食料品も資源も高い状況に対し、「では、政府が補助してあげましょう」と言い、公的債務が増えてしまうのである。こうした状況をどう是正していくのかが、今後の各国政府の課題になるだろう。
いまの円安が大幅な円高に転換する可能性は小さい
主要国がインフレ対策で金利の引き上げを行うなか、日本だけが金融緩和政策を継続してきたため、2022年以降、記録的なスピードで円安が加速している。
主要国の消費者物価指数(CPI)を見ると、高い順に、イギリス7.66、EU6.48、アメリカ4.08、日本3.21だ(図表4上)。これには2020年2月以降のイギリスのEU離脱(ブレグジット)の影響もあると思われる。
また、世界中がインフレ対策で政策金利を上げたが、日本だけが逆行する形で緩和政策を続けてきた。
主要国の政策金利はアメリカが5.50、イギリスが5.25、EUが4.50だが、日本はマイナス0.10である(図表4中)。日本の場合、消費者物価指数も低く抑えられているが、政策金利はゼロに貼り付いたままという状況だ。
欧米の政策金利が4.50〜5.50となっているため、当然円が売られて安くなる状況である。2023年には日銀の新総裁に就任した植田和男氏が緩和政策を是正する動きを見せて若干戻ったが、それでも内外の金利差によって、円安傾向に振れやすい状況が続いている。
FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は、2023年12月の演説で「政策金利は今がピークだろう」と発言した。ということは、「このあと下げる可能性はあるが、上げる可能性は少ない」ということで、そこから1ドル140円ぐらいまで円高が進んだ。しかし、大きな流れとして、日米に金利差がある限り、円は安くなるだろう。
日本国民は長い間給料が上がらないことに加え、円安で物価だけが上昇し、庶民の暮らしは厳しくなる一方である。また、日本の国力低下により、若干の金利上昇程度では円安から大幅な円高に転換する可能性は小さい。政府や日銀がこのまま何の対策も打たなければ、今後も円安の悪影響が継続することになるだろう(図表4下)。
2024年3月、就任1年目を迎えた日銀の植田和男総裁が約17年ぶりの利上げを決め、11年間に及ぶ異次元の金融緩和策を「普通の金融政策」に転換した。さらなる金融正常化に向けて、植田氏の手腕が問われる。