例えば70年万博で話題になった「人間洗濯機」も今回アップデートされ展示されます。電磁石で地面から1センチ浮く靴も出るらしい。「そんなの何の役に立つの?」と笑っちゃうような技術も、発想を転じれば介護現場の省人化や、足腰負担軽減の介護補助装置として役立つかもしれません。汚水を浄化し飲み水に変える技術や、清潔で高性能なトイレ機能の技術が飢餓や不衛生に悩む国々を救い、iPS細胞が未来の再生医療を切り開く可能性も大いにあるでしょう。

多くの来場者がそれらの技術に触れていろいろとおしゃべりすることで、想定外の新たな用途の発想が生まれるかもしれません。バーチャルなネット上の博覧会ではなく、リアルな万博を開催する意義はここにあります。

写真=iStock.com/kuremo
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自分のためではなく次世代の幸福のために

万博はイノベーションが花開く場、ビジネスチャンスの宝庫でもあります。半世紀前の大阪万博でも「未来」を感じさせ人々をワクワクさせた「動く歩道」や「電気自動車」「モノレール」「ワイヤレステレホン」が登場し、その後本当に実用化されました。「来て観て楽しい」以上の万博の価値を岸田首相は国民にアピールすべきです。

経済効果も無視できません。現在、大阪万博の会場建設費は最大で2350億円になる見込みですが、全体の経済効果は3兆円超と試算されています。これだけの経済効果が見込まれるのであれば、投資する価値は十分にあるのではないでしょうか。

もう一つ大切なことがあります。それは「税金の使い方」を改めて考え直すということです。万博に限らず、子育て対策に税金をあてる、大学の研究開発費に税金をあてる、そうしたことに対して日本の世論はシビアです。自分たちに直接関係のない事柄に税金を投入することの意義を感じられないからでしょう。

しかし、自分自身には直接利益が戻ってこないとしても、社会全体が利益を受けるために投入すべき税金があるはずです。万人に子どもがいるわけでもないし、万人が経済的困窮に陥っているわけでもない、万人が宇宙開発や大学の基礎研究に関心を持っているわけでもないでしょう。

それでも10年後の日本社会、次世代の幸福のためにいま投じるべき税金・果たすべき責任というものがあります。万博だって同じです。今回は大阪の税金だけに限らず、日本全体の税金を使いますし、来場しない人の税金も使います。しかし受益者は将来の日本人を含む世界中の人たちです。だから来場しない、関心のない人の税金も使わせていただくのです。

そういう考え方を岸田首相がしっかりと示せば、日本の多くの有権者はわかってくれると僕は信じています。

(構成=三浦愛美 撮影=的野弘路 写真=時事通信フォト)
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