静岡選出国会議員の印象の悪さも裏目に
今回の知事選の結果は、大村氏のリニア問題に対する選挙戦略の失敗が大きいが、同時に自民党への逆風も大きな影響を及ぼした。
自民党静岡県連が大村氏の推薦を党本部に上申したのと同じ4月23日、安倍派座長で派閥の裏金疑惑で離党勧告処分を受けた塩谷立・元文科相は不満たらたらで自民党を離党した。
塩谷氏は静岡8区(浜松市中心部)を選挙区として、県連会長を務めるなど自民党の重鎮だった。
塩谷氏は座長といっても、安倍派5人衆とは違い、何の発言権もないことは周知の事実だった。塩谷氏は党の離党勧告処分に対して再審請求を行い、「岸田首相も責任を取れ」と主張したが、県内では見苦しい対応だと受け取られた。
さらに、安倍派の裏金疑惑の際に、暴露発言をした宮沢博行・元防衛副大臣(衆院比例東海)が女性問題で辞職した。宮沢氏は、磐田、掛川など静岡3区を地盤としていた。
テレビ、新聞は2人の醜聞を繰り返し報道、静岡県の自民党政治家のイメージは地に落ちた。
極めつきは、最後の選挙サンデーとなった19日、地元選出で女性外相として世界を飛び回る上川陽子外務相を応援弁士としたことだ。
上川氏は18日の静岡市内の演説会で、「この方(大村氏)をわたしたち女性が(知事として)うまずして何が女性でしょうか」と発言した。
上川氏の発言は、上川氏の支持者らに向かって、女性たちの力で大村氏の知事誕生を後押ししてほしい、と「出産の苦しみ」をたとえに使ったに過ぎない。
共同通信が「うまずして何が女性か」の見出しで、「子どもをうまない女性は女性ではないと受けとられかねない不適切発言」とする野党幹部の談話とともに記事を配信した。静岡新聞、中日新聞がそのまま記事を掲載、テレビ各局も続いた。
自民の逆風にも抗えず「早期決着」は空虚に響いた
大村氏の総決起集会を終えたあと、報道陣の取材に対して、上川氏は「真意と違う」などと発言そのものを撤回した。
静岡県では、磐田市、掛川市など静岡3区を選挙区とした、自民党重鎮だった柳沢伯夫元厚労相が2007年に「女性は子どもを産む機械」と発言したことを連想してしまい、上川氏の「真意」を誤解した県民のほうが多かった。
今回、派閥の裏金疑惑で始まった自民党への逆風を抑えたい自民党県連は「自民色」払拭に躍起となっていた。
結果的には、「うまずして」発言の騒ぎで、上川氏がすべての話題をさらい、肝心の大村氏の存在感は非常に薄くなってしまった。
選挙戦最終盤まで自民党へは逆風が吹き荒れ、それを克服する一手の上川氏の起用も失敗した。リニア問題に続く失点となり、大村氏の敗北につながった。
鈴木氏は28日午前に当選証書を授与され、知事職に就く。29日に就任後初の記者会見に臨む。