もし、上司が得意先と同じ立場になって部下を責めたら、部下からすれば、わざわざ同行しておきながら、味方になってくれずに責められるわけですから面目丸つぶれです。そんな会社にはいたくないと思ってしまうかもしれません。
ミスをした部下にも自尊心はあります。リーダーは「自分は何のために謝っているのか」を考え、常に部下をリードできる存在でありたいものです。
社員のやる気を削ぐ「やらないほうがマシ」という思考
リーダーよりも、チームのメンバーが陥りがちなバイアスもあります。その一つが、不作為バイアスと呼ばれるものです。不作為バイアスとは、何かをしてイヤなことが起こるならば、何もしないほうがよいと考えてしまうことです。
たとえば、年間1000人の命を奪っている感染症が流行ったとします。そこに、感染症にかからない薬が開発されたとしましょう。
しかし、強い薬のため重篤な副作用が生じ、年間700人ほどの命が奪われてしまいます。このとき政策判断者が「それであれば、その薬を認可しなくてもよい」と、薬が使われるようになることを拒むという話です。
そのままでも悪いことが起きるときに、悪いことが起きる可能性を減らせる行動はあるが、やらないでおくというのがこのバイアスです。
いずれにせよマイナスなのだから(何もしないほうがマイナスは大きいけれど)何もしないほうがいいという意思決定をします。
「不作為バイアス」が組織を腐らせる
先ほどの感染症の例は極端ですが、よくあるのは「結局マイナスであれば、面倒くさいからやらない」というケースでしょう。
この「面倒くさい」というのは、つまり行動する際のコストです。コストを掛けても結果がマイナスならば、たとえ行動することでそのマイナスが小さくなるとしても、やらないでおこうという思考が働きやすいということなのです。
ですから、このバイアスは、業績が右肩下がりのときに生じやすいと言えます。もう目標には届かないけれど、がんばれば近づくことはできる……でもどうせ届かないし、がんばりが報われないのもイヤだからやらない、という状況が想定できるでしょう。
たとえば、個人目標を達成したのに、全体が右肩下がりであれば、人事評価がよくても給与がマイナスになることもあり得ます。そのとき「ほかの社員はマイナス10だけど、きみはがんばったからマイナス4で済んだ」という評価をされても、なかなか気持ちよく仕事はできないでしょう。
リーダーは、部下を評価する仕事をしなければなりませんが、会社全体が右肩下がりのときで会社にお金がないときには、評価をよくしてもボーナスなどでマイナスにならざるを得ないことがあります。