むしろ海保は世界標準

――「海保法25条をソ連がねじ込んだ」と主張している人や、あるいはそうでなくても一部の人の間では「25条を撤廃して海保を軍隊にできるようにすべきだ、という主張もあります。

【奥島】そういう主張をする人は、「軍事機能を持たない非軍事のコーストガードである日本の海保はグローバルスタンダードから外れたガラパゴス組織だ。」というのですが、これも間違いです。

世界のコーストガードを見ると、軍事組織に属しているコーストガードより、非軍事組織に属しているコーストガードの方が多いのです。

特にアジアはそうで、むしろ軍組織の一部や軍系列の組織に位置付けているのは中国とインドくらいで、あとはほとんど非軍事組織に属しています。欧州でも軍事組織とは別組織にしているところが多いのです。

もちろん、「いざという時には軍の機能を担う」という国はありますが、それが世界の大勢かというと、これは「わからない」というのが実際のところです。

というのも、そうした規定がない国も多いからで、確かに、日本のように「軍事活動は行わない」と明記している国も少ないのですが、アメリカのように「軍事活動を行う」と明記している国も少ないのです。

多くの場合、その時になってみないと実際どうなるかはわからないと言うのが実態だろうと思います。まずはそうした事実関係を抑えてもらいたい。

海保→軍隊の一部にしてはいけない理由

そのうえで、では、海保もいざというときには軍隊の一部になるのか、防衛大臣の統制下に入るとはどういうことなのか。

海を舞台に有事が勃発すれば戦うのは海上自衛隊ですが、その時には海保も海自と連携しなければならないのは当然です。その時に軍隊にならなければ連携がうまくいかないというのが「軍隊化」を推す人の主な理由ですが、ここに論理的な説得性はないんですね。

そもそも海自と海保は任務が違うわけで、もし有事になれば海保は法執行機関として国民保護などの任務にあたります。

何より、相手の海軍が出てきた場合、海保が海自と同じように対峙することはできませんから、有事には海自は国防、海保は国民保護というようにお互いの能力を最も発揮できるそれぞれのスペシャリストである分野を担うべきなのです。そのためには、私は今のままのほうがいいと思います。

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