軍隊ではない組織がいる意味

有事には、自衛隊がなすべき任務だけでなく、警察や海保のような法執行機関が対処しなければならない問題も次々に発生します。それを脇に置いて、「海自と行動を共にしろ」というのは本末転倒です。

また海上保安機関を設立し、育てるためアジアを中心とする海に接する国々から日本に学び求めてきています(前編参照)。軍ではない、法執行機関が持つ紛争回避のバッファ機能を持つことが、国益につながるのです。

一方で、海保と海自の連携は重要です。連携を図る上ではお互いの文化や「言語」を理解することが必要不可欠ですが、そのためには日ごろの交流……つまり食事会や飲み会ですが(笑)、これがお互いの理解を深めます。

私も海上自衛隊の幹部とはずいぶん交流を深めさせてもらいましたがこうした関係は今も続いています。幹部が交流を深めることで、現場にもいい影響があると思いますね。

奥島元長官と一緒に写るのは、海上保安庁のマスコットキャラ「うみまる」。タテゴトアザラシの子供だ。
撮影=プレジデントオンライン編集部
奥島元長官と一緒に写るのは、海上保安庁のマスコットキャラ「うみまる」。タテゴトアザラシの子供だ。

もし尖閣に海上民兵が上陸したら

――尖閣有事についてよく言われるケースとして「漁船に乗り込んだ海上民兵が尖閣に座礁したふりをして上陸し、占拠する」というシナリオがあります。こうしたシナリオは、実際に尖閣の状況をご存じの海保の立場から見ても危険性の高いものなのでしょうか。

【奥島】そうしたシナリオはよく議論になっていますよね。これも一見、もっともらしいんだけれど、よく考えると「上陸して、で、何をしたいの」という話です。確かにそういうことが無いとは言いませんが、中国が国家の意思として海上民兵を上陸させる目的は何なのかということです。

果たしてどのくらいの規模の海上民兵が上陸する想定なのかわかりませんが、周辺海域には門番のように海保の巡視船がいて、いざとなれば応援の船も来るわけです。海上保安官が何人も詰め掛けられるところへ民兵がやってきても、数人では占領は不可能で、ただ逮捕されるだけのことです。

そもそも尖閣諸島はどの島も「座礁を装って上陸」するには並大抵の技ではできないくらい厳しい環境があります。もちろん港などありませんし、砂浜もない。岩がごろごろしているか、崖になっているようなところが多い、まさに自然の要塞です。

「座礁を装う」ことに挑んでも、失敗して船が横転したら、乗組員は海に落ちてしまう。それを試すのはかなりリスクが高いし、運よく上陸できても、食料も水もありません。