「調査ボーリングをやめろ」は取り下げなかった
ところが、2023年1月11日付静岡新聞インタビュー記事で、川勝知事は「山梨県内でJR東海による高速長尺先進ボーリング(調査ボーリング)を実施すれば、調査の名を借りた水抜き工事となる」と糾弾した上で、「もし、山梨県内で調査ボーリングを行えば、湧水の全量戻しは実質破綻する」と述べて、リニア工事ではなく、調査ボーリングをやめろと唱えたのだ。
インタビュー記事の大見出しは「JR東海 先進ボーリング実施 全量戻し『実質破綻』」となっていた。
まさに、トンネル掘削から「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」に舵を切ったのだ。
その後、川勝知事が「サイフォンの原理」を持ち出して、静岡県内の断層帯と山梨県内の断層帯が地下深くのところで交わるから、静岡県の湧水が山梨県へ引っ張られるなど頓珍漢な主張をした。
「サイフォンの原理」の誤りは認めたが、高圧水で静岡県の水が引っ張られるから、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」との主張は取り下げなかった。
「県境300メートルには近づくな」と要請
そのようなドタバタが続く中、森貴志副知事は5月11日、「静岡県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ約300メートルまでの区間を調査ボーリングによる削孔をしないことを要請する」とした意見書をJR東海に送った。
つまり、静岡県は正式に、県境手前約300メートルの断層帯付近で、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」と求めたのだ。
これに怒ったのは、もう一方の当事者である長崎知事である。「山梨県の工事で出る水はすべて100%山梨県内の水だ」と断言した上で、「山梨県内のボーリング調査は進めてもらう。山梨県の問題は山梨県が責任をもって行う」などと強い調子で山梨県内の調査ボーリングを進めることを宣言した。
5月31日のリニア沿線都府県知事による建設促進期成同盟会に続いて、自民党リニア特別委員会で、長崎知事は「企業の正当な活動を行政が恣意的に止めることはできない。調査ボーリングは作業員の安全を守り、科学的事実を把握するために不可欠だ」と山梨県の立場を尊重するよう川勝知事に求めた。