専門部会は調査ボーリングを容認したが…

さらに、もともと静岡県のリニア問題責任者を務めた難波喬司・静岡市長が5月24日の定例会見で、「調査ボーリングの穴は小さい。これが300メートル先まで水を引っ張るなんて考えられない」などと個人的な見解を述べた。

6月6日には、静岡市長としてではなく、静岡理工科大学大学院客員教授(工学博士)の立場で、「山梨県内の調査ボーリング」に特化した異例の会見を開いた。難波市長の計算では、調査ボーリングによる湧水量は、先進坑掘削と比較して、1.8%程度しかないと推定した。

難波市長は「県の推定は過大評価である」との見解を示し、「ボーリング調査は進めるべきだ」と川勝知事と真っ向から対立する姿勢を示した。

その翌日の6月7日開かれた地質構造・水資源専門部会で、森下祐一部会長、塩坂邦雄委員(地質)は県境300メートル付近の断層帯で、高圧水が出る可能性について言及した。

しかし、高圧水の可能性について、大石哲委員(水工学)は「コントロール可能」とし、丸井敦尚委員(地下水学)は「10年掛かってほんのわずかな水が出る程度でリニア工事のリスクにならない」と大量湧水を否定した。

となると、専門部会は山梨県内の調査ボーリングを科学的工学的に容認したことになる。

辞意表明2カ月前に突如出た「難癖」

その後、いったんは、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」が議論の俎上に上がることがなかった。それが、2024年2月5日になって、再び、リニア問題の中心テーマに躍り出た。

2月5日に開かれた森副知事らのリニア会見
筆者撮影
2月5日に開かれた森副知事らのリニア会見

森副知事らが「リニア中央新幹線整備の環境影響に関するJR東海との『対話を要する事項』について」と題する記者会見を開いた。「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を新たなJR東海との「対話」項目に取り上げたのだ。

川勝知事の辞意表明2カ月前であり、“知事御用達”と言える難癖だった。

そこには、「静岡県内の断層帯と山梨県内の断層が下で繋がっている可能性があることから、山梨県側からのボーリングによる健全な水循環へ影響する懸念」があるとして、「高速長尺先進ボーリングが、JR東海が慎重に削孔を進める県境から山梨県側へ約300メートル区間の地点に達するまでに、その懸念に対する対応について説明し、本県等との合意が必要である」としている。

どう考えても、「健全な水循環への影響の懸念」が何かわからない。県境付近の地下水を指して、「健全な水循環」があることなど理解できないからだ。

リニア環境影響評価準備書に対する知事意見書には、「山梨県における工事が本県を流れる富士川に及ぼす影響、長野県における工事が天竜川に及ぼす影響について示すこと」と記されている。

山梨県の工事は富士川への影響があると言っているのであり、大井川水系とは全く無関係としていた。そもそも、「静岡県の健全な水循環」など問題にしていなかった。