「まだ多方面に揺れているんですけど」

松本一馬さん(石巻高校2年生)。

松本一馬(まつもと・かずま)さんは「ミスター具体的」齊藤さんと同じ、石巻高等学校普通科2年生。松本さんはこの日集まってくれた5人の中で唯一自宅が全壊しているが、現在は「リフォームをして暮らしています」。全壊家屋すべてが「根こそぎ津波に流され土台しか残っていない状態」というわけではない。2001(平成13)年に内閣府が定め、市町村が実際の判定作業を行う「災害の被害認定基準」では、全壊は次のように定義されている。

《住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの、すなわち、住家全部が倒壊、流失、埋没、焼失したもの、または住家の損壊が甚だしく、補修により元通りに再使用することが困難なもので、具体的には、住家の損壊、焼失若しくは流失した部分の床面積がその住家の延床面積の70%以上に達した程度のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が50%以上に達した程度のものとする》

床面積や損害の割合が減るに従い、大規模半壊、半壊、一部破損と判定が区別され、罹災証明書が発行され、生活再建支援金や義捐金、地震保険の支給額が変わってくる。これらの基準となるものが、復旧を目的とし、住み続けるための復旧の要否を判定する「被災度区分判定」だ(被災後すぐに、二次災害の防止を目的とし、市町村の担当者が当面の使用可否を判定して建物に「危険(赤)」「要注意(黄)」「調査済み(緑)」の札を貼る「被災建築物応急危険度判定」とは別のものだ。「赤札」が貼られたからといって、「全壊」の罹災証明が受けられるとは限らない)。

さてお待たせしました松本さん。将来何屋になりたいですか。

「まだ多方面に揺れているんですけど、まずひとつが数学か理科の中学教師です。勉強とかよりも、人生を生きる上での社会性っていうんですか、そういうのを教えられたらなぁと思ってるんですけど。そういうこと、中学の時に、もう教えたほうがいいと思うんですよ。あと、研究開発系の仕事にも就きたいと思うんです。物理とかは苦手なんですけど、宇宙とかに興味があって。昔、素粒子物理学の本を読んで、一番小っちゃい単位の素粒子が、一番大きい宇宙とすごく密接に関わってるって、それがすごいなぁと思って。あと、開発系の仕事もいいなぁと思って。学校でやる職業講話に、いろんな仕事をしている人が来てくれて話をしてくれるんですけど、そのとき研究開発系の仕事を聞きに行って、思ってたよりも規模がすごく大きかったんで、いいなぁと思って」

この種の「職業人による講話」は他の取材先でも耳にしたが、石巻高校のそれは熱心に行われているという印象を持った。石巻高校は地域有数の進学校だ。昨年は卒業生235人のうち、国公立大学に77人(うち東北大学には8名)が現役合格している。1923(大正12)年開校の名門高でもあり、OBには「週刊朝日」編集長の扇谷正造、歴史学者の石母田正(いしもだ・しょう)、そして作家の辺見庸がいる。

松本さんの宇宙研究の話は、連載第19回・大船渡編の平士門さんに通ずるものがある。そして「勉強とかよりも社会性を教えたい」という話は、このあとも登場することになることを予告しておく。高校生たちの未来の話は、本人たちも意識しないところで共振を起こす。だがそれは、就活に過剰適応した大学生の画一的な「御社を志望した理由は」とはちょっと違う。内定を取らなきゃという切なさを感じさせないからか、ああ、ほんとうにそれが好きなのだな——と、素直にこちらの耳に入ってくるのだ。

松本さんには石巻高校の「職業講話」の内容を詳しく教えてもらった。

(明日に続く)

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