アップルもTSMC以外には頼めない

別の言い方をすると、TSMC以外の受託メーカーの大部分は、顧客が支配する「買い手市場」にいるが、TSMCは「売り手市場」でビジネスを展開している。そこでは顧客がTSMCに高度に依存しており、TSMCと同じものを提供する会社は存在しない。

TSMCの最大顧客であるアップルはリスク分散のために、過去に何度も2つ目、3つ目のサプライヤーを積極的に育てようとしてきた。しかし、TSMCに対しては、第二、第三のサプライヤーがどうしても欲しいとは言いにくかった。他社にはまねできない抜きんでた技術を、TSMCが持っているからだ。

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つまり、「受託業者」と呼ばれるかどうかはまったく問題ではない。顧客が持っていない技術を握り、顧客を自分により依存させることこそが、勝敗を決めるカギになるのである。

スタバとTSMCはビジネスモデルを変革した

モリス・チャンは2017年7月に台湾の経済団体、工商協進会の講演会で、TSMCは典型的な「ビジネスモデルのイノベーション」企業であり、TSMCの収益が高いのは、この優れたビジネスモデルのおかげだと話している。

この日の講演会のテーマは「成長とイノベーション」だった。製品と技術のイノベーションも確かに重要だが、さまざまなイノベーションのなかでも「ビジネスモデル」のイノベーションこそが最も価値ある、重視すべきものだとモリス・チャンは語った。

今日のようなインターネット時代では、ビジネスモデルのイノベーションの成功例は珍しくもないが、モリス・チャンが見たところ、「ビジネスモデルのイノベーション」という言葉ができるよりもかなり前に、ビジネスモデルのイノベーションの成功例が2つ生まれていた。その1つがアメリカのスターバックスコーヒーで、もう1つがTSMCである。

1980年代の序盤から脚光を浴び始めたスターバックスには、「コーヒーに対する顧客のセンスを磨いて価格を上げる」という極めてシンプルでパワフルなコンセプトがあった。スターバックスが登場する前は、五つ星ホテルのコーヒーが1杯約50セントで、高速道路のサービスエリアでは1杯20セントだった。だがスターバックスが品質を上げると、瞬く間に1杯2ドルまで跳ね上がった。だが、それでも顧客は飲み続けた。