ぐちゃぐちゃにしていたのがピタッとなくなった

ショッピングモールへ行ってみると、たしかに楽しんでくれているようでした。ただし、店内をぐるぐると見て回るだけで、自分のモノを買おうとはしません。服などはかなり持っている人だったので気に入ったものがなかったのかもしれません。

フードコートでお昼を食べましょうかとなったら、ぼくたちの分まで払おうとして聞かないので、とりあえずその場では出してもらいました。

ぼくやSさんの娘さんが食べているところをニコニコ笑いながら機嫌よく見ていたので、1日の過ごし方としては悪くなかったのだと思います。

驚いたことに、その日以降、Sさんが部屋をぐちゃぐちゃにすることはなくなりました。

娘さんによれば、昔から人にご馳走したり、何かを買ってあげたりするのがすごく好きだったといいます。ショッピングに行った効果がばっちり出たかと思いましたが……、理由はそれではなかったんです。

ショッピングに行く際、娘さんが「これを着ていくのがいいんじゃない」と家から持ってきてくれた服がありました。実は、Sさんはまさにその服をずっと探していたようでした。ショッピングから帰ったあとも、その服を部屋の中にかけておくようにすると、タンスをあさることはなくなりました。

何で困っているのか、本人も伝えるのが難しい

娘さんによれば、上下揃いの外出着なので、施設で着ることはないだろうと持たせていなかったのだといいます。その服は、Sさんにとって思い入れのある大切な一着でした。Sさんがその後、施設でその服を着ることはなかったのですが、見えるところにあることで安心できたのだと思います。

便器でタオルを洗うといったこともなくなり、その後はいつも清潔にしながら過ごされました。

タンスの中のものをなんでもかんでも引っ張りだしていた頃、「何か探しものでもあるんですか?」と聞いても「あんたらに言ってもわからん」と返されていました。

たっつん『認知症の人、その本当の気持ち』(KADOKAWA)

Sさん自身、お気に入りの服を探すという意識があったのかどうかはわかりません。服とは関係ないものについても「なくなった」ということが多かったため、Sさん自身、タンスを探っている目的を明確化できていなかった可能性もあります。それでいながら、お気に入りの服を手元に置いておけるようになると、嘘のように問題が解決したわけです。

認知症の人の場合、自分が何で困っているのか、どうしたいのかを認識し、伝えることが難しい場合があります。問題解決の糸口をみつけるのは簡単ではありませんが、いろいろな働きかけをしている中で、偶然その糸口がみつかることもあるのですから、あきらめずにかかわっていくことが大切だと感じます。

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