ネット上の意見は半分に割れた
所有権に関してもう一つの原始的で本能的な主張は、早い者勝ちというものである。子供たちは公園でこう叫ぶ。「ボクが先だったもん!」。大人はそれをお腹の中で叫ぶ。
それからもう一つ思い出してほしい。ビーチはニー・ディフェンダーを取り付けてノートPCを開いた時点で、リクライニング空間を物理的に占有していた。この占有は九分の勝ちという主張も所有権に関してひんぱんに耳にする。
以上のようにリクライニングを巡る騒動は、付属(attachment)、早い者勝ち(first-in-time)、占有(possession)という所有権に関する三通りの主張を際立たせる結果となった。
インターネット上でニー・ディフェンダー問題の意見を募ったところ、はじめは大半の人が「わかりきっている」、「議論の余地などない」という態度だったが、私たちがさらに踏み込み、何通りかの主張を列挙して賛成・反対を送信するよう頼んだところ、意見はビーチ派とウィリアムズ派にみごとに割れ、どちらも反対側の意見を頭からはねつけた。
2020年にUSAトゥデイ紙が行った世論調査によると、半数が「リクライニングできるならする」と答え、半数が「何の断りもなくそんなことはしない」と答えた。だからこそウィリアムズは自分の座席が押し返される様子を動画に撮って投稿したのだし、ビーチは何の遠慮もなく前の座席がリクライニングできないようにしたのである。
「私のものに手を出すな!」というわけだ。
座席が狭いほど航空会社は人を乗せられる
なぜこのようなあさましい争いが今日多発するのか。かつてはリクライニングでこんな騒ぎが起きることはなかった。なぜならごく最近まで、座席の前後間隔はもっと広かったからである。
リクライニングをするにも、テーブルを下ろして仕事をするにも、十分な空間が確保されていた。だから、リクライニングをするときのすこしばかりのくさび形の空間が誰のものかなど、誰も気にしなかったのである。だが航空会社はどんどんシートピッチを狭めてきた。さほど遠くない昔には90センチ近くあったのに、いまは80センチを下回っている。航空機によっては71センチしかないケースもある。
航空会社にしてみれば死活問題だ。一列につき3センチ縮めれば、全体で6席よけいに売ることができる。利益を増やすために航空会社はより多くの乗客を詰め込もうとした。その一方で人間の体格は年々よくなっているうえ、テーブルは軽食ではなく高価なコンピュータを支えなければならなくなる。
それに、乗客にとっては命のかかる問題でもあった。パンデミックのときなど、間隔が3センチ縮まるたびに感染の確率は高くなるのだから。