シンガポールのコンビニは、出入り口は一か所で、全面ガラス張りである。

日本にコンビニが輸入されたときにも、そのデザインはそのまま引き継がれた。しかし、その理論的コンセプトが広く知られることはなかった。その結果、せっかくガラス張りにした側面にポスターを貼ったり、そのそばに本棚を置いたりして、店内を「見えにくい場所」に変えてしまった。これでは、強盗や万引きを誘発してもおかしくない。

では、今回の事件現場はどうだろう。やはり、ポスターが何枚も貼られ、本棚もガラス面に沿って設置してある。Googleストリートビューで見る限り、のぼり旗が立てられ、余計に店内が見えにくくなっている。

対照的に、台湾のコンビニは「見えやすい場所」になっている。ポスターが貼られていないだけでなく、全面ガラス張りの壁に軽食カウンターが設置されている。ここで飲食すれば、自然に目が道路に向く。つまり、犯罪機会論のデザインによって、店内だけでなく、店外の安全も確保しているのだ。

同様に、韓国のコンビニも「見えやすい場所」になっている。店の前に、食事用のテーブルや椅子が置かれているからだ。ここに誰かが座れば、店内と店外の両方に視線が注がれる。他にも、カプセル玩具の自動販売機が入り口の横に設置された店舗もある。親子連れが玩具目当てにコンビニを訪れれば、それだけで店内と店外の安全性が向上する。

このように、海外では、あの手この手で視線の交流が図られている。それが「見えやすい場所」を作るからだ。そこに犯罪機会論の伝統を垣間見ることができる。

繰り返しになるが、コンビニのデザインは犯罪機会論の長い研究の成果である。しかし、犯罪機会論を知らなければ、せっかくの防犯デザインも効果が減じられてしまう。もし犯罪機会論が普及していれば、今回の事件も、尊い命が奪われる悲しい出来事にはならなかったかもしれない。犯罪原因論から犯罪機会論への発想の転換が求められる所以である。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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