日銀は何も変えていない

黒田東彦・前日銀総裁が始めた「異次元緩和」は、正式には「量的・質的金融緩和」という。質的とは、日銀が長期国債などの購入に踏み込むことであり、量的とは日銀が大量の長期国債を購入して、お金を銀行間市場に流し込む政策だ。これが今の日銀の金融政策の根幹である。

YCCやマイナス金利政策はその太い幹から出た枝、あるいはとげのようなものにすぎない。したがって「日銀の政策変更」が行われたか否かは、長期国債の大量購入を止め、保有国債の減額にかじを切ったか否かで判断するべきだ。

すなわち「年間の購入国債<償還国債」が実現して初めて「量的緩和政策の変更」と言える。

今回の金融政策決定会合で、日銀は長期国債を毎月6兆円程度買い入れることを決めている。私が参院予算委員会で日銀に聞いたところ、今年満期を迎える日銀の保有国債は67.1兆円になる。買い入れ額のほうが償還額より多いのだから、日銀の保有国債額は相変わらず増え続ける。これでは「量的緩和政策の変更」などとは到底言えない。

3月22日の日経新聞1面トップに「世界緩和マネー、圧縮途上 ピークの8割」という見出しが掲げられた。“途上”ではあっても各国中銀はバランスシート(BS)を圧縮している。つまり市中に出回ったお金を回収しているのだ。

一方の日銀はBSを拡大し、円をばらまいていく。モノやサービスと同じで、お金も供給過多になれば価値は下落する。円安、インフレが予想される。なお、下落する円とは逆にビットコインが昨今爆謄しているのは、ばらまかれ続ける円と発行量に上限があるビットコインとの希少価値の差にあるように思える。

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「マイナス金利の解除」は「利上げ」ではない

政策金利とは市場金利を誘導させるための金利である。政策金利が重要なのではなく動かすターゲットの市場金利が重要だ。

なぜならば、貸出し金利、預金金利、住宅ローンの変動金利、FXのスワップポイント、日米金利差等は市場金利で決まるのであり、政策金利で決まるわけではないからだ。

FRB(米連邦準備制度理事会)の政策金利や、異次元緩和前の日銀の政策金利は、100%市場金利と連動していたから政策金利の動きをウオッチしていればよかった。しかし、異次元緩和後、日銀は補完当座預金制度適用利率という510兆円(2月16日から3月15日)のうちの、たった28兆円にしか適用されないペナルティー金利のことを政策金利と称するようになった。私は何じゃそれ? と思っていた。市場金利との100%の連動性がないからだ。

実際、政策金利がマイナス0.1%だった金融政策決定会合前日の無担保コールO/N物レート(市場金利の原点)はマイナス0.003%だった。ほぼゼロ%と言ってもよい。もし今回の決定会合が「マイナス金利政策の解除」だけだったら、無担保コールO/N物レートはマイナス0.003%から0%に変わっていただけであろう。

政策金利を0.1%上げたのに、市場金利はたったの0.003%しか上がらなかった。微動だにしなかったと言ってもいい。