株と国債の爆買いは「禁じ手」

「今、日銀は政策変更をすべきなのか?」と聞かれれば、答えは当然にYESだ。

日銀は、大規模緩和を続けるにあたって「禁じ手」を使ってきた。金融政策目的で株を保有している中央銀行は日銀以外、G20の国にはない。日銀はETFを大量に爆買いし続け、日本最大の「株主」になってしまった。

その保有額は、長期債の購入(=お金のバラマキ)に比べれば桁違いに小さい金額なので、異次元緩和政策にはさほど影響がなく、やめても(株式市場に影響が出たとしても)日銀自身が窮地に追い込まれることはない。はるか以前に止めるべきだった。せっかく進めてきた国の民営化と真逆の逆民営化政策だった。日本は社会主義国家ではないはずだ。

長期債も同様で、日銀ほど(対GDP比)長期国債を保有しているG20の国はない。私が金融マンだった頃の日銀は、長期債などほとんど保有していなかった。他国の中銀は「まだ日銀がこけてないから」との理由で日銀を「炭鉱のカナリア」として、日銀のはるか後方をおそるおそるついてきただけだ。

その他国の中銀は、すでにUターン(=国債保有の増額中止、減額)を始めている。日銀だけが崖に向かって驀進中だ。インフレを抑制し、金融正常化を実現するには、日銀は保有する長期国債も大幅に減じるべきなのだ。

中央銀行は、株や国債などの価格が大きく変動する金融商品を保有すべきではない。市場をゆがめるだけではない。債務超過に陥ってしまうと信用が失墜し、その発行する通貨の価値も失墜してしまうからだ。これは伝統的金融論の肝である。

日銀通りの標識
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物価高を抑えるために「大規模緩和の終了」は不可欠

東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2022年10月から前年同月比2.0%を超え、高い時は4%に達した。現在でも3.15%(2月)の高い水準にある。

今後、政府のエネルギー補助金が打ち切りとなれば、物価高に対する国民の肌感覚は、さらに悪化するだろう。為替が円安方向に進めば、インフレ加速のリスクはさらに高まる。

このような経済環境の中で、市場金利の原点(日銀の誘導目標)であるオーバーナイト無担保コールO/N物レートがゼロ%という史上最低レベルのままでいいはずがない。少なくともCPIと同じ2%以上であるべきだ。長期金利も「名目長期金利=実質金利+期待インフレ率+政府の倒産確率」という伝統的金融論が唱える数式に当てはめれば現状の金利0.7%はあまりに低すぎる。

長短金利があるべき姿から長期にわたって乖離かいりすると、インフレが加速し中央銀行の制御が効かなくなる。市場金利が政策金利を無視して荒れ狂うことになる。そうなると日本経済はめちゃくちゃだ。

以上を考えると日銀は金融政策を少なくとも中立程度にまで修正していかねばならないのは明らかだ。異次元緩和を継続するべき地合いではない。

しかし「するべき」と「できる」とは全く違う。日銀の植田和男総裁も「政策変更は絶対必要」と思っているはずだ。問題はそれができないことだ。日銀の債務超過を筆頭として、日本経済のダメージがあまりに大きすぎるからだ。そこが日銀、そして日本経済の大問題なのである。