日銀が利上げをしたくても「できない」理由

インフレが加速していった場合、プラスに戻った市中金利を更に上げていくためには、日銀当座預金に対する付利金利を上げていくしか方法はない。他国の中央銀行もその方法で利上げをしている。伝統的金融政策をしていたころの利上げ手法は、異次元緩和をしてしまった以上、日銀は使えない。

現在、日銀当座預金残高は538兆円だから、法定準備金を除けば約500兆円。今後は0.1%の利上げごとに年間5000億円の金利支払いが生じる。

令和4年度(2022年度)の日銀の経常利益は3兆2307億円。そのうちETFからの利益が1兆1044億円、外国為替関係益が7490億円だ。前述したように、本来中央銀行が保有してはいけない株で純利益の3分の1を上げているなど、びっくり仰天だ。

それはともかく、本来、中央銀行の通貨発行益の主たる源泉は保有国債からの受取利息だが、日銀の受け取り利息は1兆5207億円に過ぎない。0.1%ごとに5000億円の支払い金利が発生すれば、いとも簡単に損の垂れ流しが始まる。

「利上げのできない中央銀行」にインフレ抑制は不可能

膨大な国債を抱える日銀にとって、利上げが自分の首を絞めることになる。利上げできない以上、インフレに対抗する武器を日銀はすでに失ったと言える。インフレ対応能力を失った中央銀行など中央銀行とは呼べない、日銀はもはや政府の紙幣印刷所に過ぎない。

ちなみにFRBの受け取り利息は年間26兆円ほどである。日銀の1兆5207億とは次元が違う。だからFRBはFED FUNDレートを5.25%から5.5%まで引き上げてやっと損の垂れ流しが始まったのだ。

日銀が無担保コールO/N物レートを5.5%まで引き上げたら毎年27兆円の損の垂れ流し(これは予算委員会で日銀に聞いた)となる。一般会計税収約70兆円と対比してみればとんでもない数字であることが分かる。ちなみに私が銀行員時代には無担保コールO/N物レートの5.5%など異常なレートでも何でもない。1985年の平均は9.06%、89年6.65%、90年8.34%だ。

このままインフレが加速していったら日銀の損の垂れ流しは他の中央銀行の比ではない。日銀に自らの信用、日本円の信用を保てる自信はあるのだろうか? FRBは大丈夫だから日銀も大丈夫という話ではない。

現在の日本国債10年物の金利は0.73%。私が参院予算委員会で日銀にお聞きしたところ、日銀の保有国債の評価損は10兆円(2023年9月末時点、10年物金利は0.76%だった)、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するそうだ。

長期金利が1.76%まで上昇すれば39兆円の評価損になるということだ。「日銀は償却原価法を取っているから表差損は問題ない」というのが黒田前総裁、植田総裁の答えだか果たして、そうか? 私は全くそう思わないが字数の関係で今回は触れない。

令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った
令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons