橋渡し役「SGM」が成功の鍵

――3代目と4代目で、この横串のところで変わったことってありますか?

【竹内】 プロジェクトチームの構成は基本的に変わっていません。ただ08年、3代目の立ち上げ後くらいにスバルグローバルマーケティング本部(SGM)という組織が新設されました。要するに本社の販売企画部門と、われわれのつくり手部分の橋渡し的な存在ですね。それまでのマーケティング部門を吸収してつくられた組織で、そのメンバーが入っています。

――3代目と4代目の間で、売上という成果に大きな差が出た。その秘訣は、意識も変わったし、経験も踏んで熟練してきたということ。それはわかるのですが、私はそれ以外にも、大ヒットに結びつく鍵があったのではないかと思うのですが。いかがでしょうか。

【竹内】 SGMのメンバーが来てくれて、コンセプトのかなり初期から、マーケティングや営業の観点から、われわれにものを強く申してくれたというところが大きな違いです。3代目のときにも本社の商品企画チームがいたのですが、どうしても「つくり手側の人間」的な発言や仕事になってしまっていた。モノづくりの人間と営業の人間が直接話をしていたのが3代目まで。今回はその間にSGMのメンバーが入っているので、営業を束ねながら、つくり手の事情もわかりながら進められました。だから、これを入れよう、ではその分の原価は販価に反映しよう、といったコンセンサスを取りながら車の仕立てをまとめてくれるわけです。

従来では、どうしても対立構造になってしまう。それが今回は、他社の競争力から見ると、これは販価を上げてでも、この部品を入れなくてはならない。たとえば燃費をお金がかかってでも改善しなくては、といったことを強く説得してくれます。営業側はやはり数を売りたいわけですから安くしたい。「そんな燃費に何千円なんてかけられないよ」「しかしそうしないと燃費は伸びませんよ、どっちにしますか」と。

逆につくり手の都合で「時間がないし、この原価目標厳しい中ではこれ」といった場面でも、「もう燃費というのはお金の取れる時代なのだから、そこにはお金をかけてもリッター何キロというのは出してほしい」ということを言ってきたりする。こうなると、「原価を反映してくれるっていうことであれば、原価をかけて開発するから頼むぜ」というようなことが、組織的にできるようになります。

――逆算の根拠をつくってくれる人という位置づけですね。では、実際にお客さんの声を聞くということについて、竹内さんが直接、販社やお客さんのモニター調査とかに携わるわけではないということでしょうか。

【竹内】 それも直接やりました。私自身がお客さまの生の声や販売側の人の意見を聞くのは非常に大事です。販売の人のマインドが高まらないと、いくらいい商品でも売ることができませんので。その人たちの意識が、われわれと一緒に高まらないとうまくいかないのです。

――そのための仕掛けは、3代目のときからあったのでしょうか。

【竹内】 そのときはまだ、対立構造がなきにしもあらずでした。社内でクレームが来たら、すぐ「つくり手を呼べ」となり、われわれが行って怒られるというような図式もあったように思います。今回はそれと違って、「一緒に肩を組んで階段を上がろうぜ」といった動きができました。

――とはいえ、SGMがいたとしても、営業にもプライドがあって、いろいろ言ってくるのではないですか。

【竹内】 そういった意味では、SGMは両方から嫌われてしまう局面も出てきます。しかし彼らは、市場のトレンドなど非常に豊富なデータ、つまり合理的な裏付けを持っている。そこから見ると、営業の言い分も半分おかしい、技術だってもう少し努力してほしい、といったことが言えます。

――そのポジションは、かなりキーマンになり得ると思うのですが、そういう嫌われ役を果たせるのは、どういう属性の方でしょうか。

【竹内】 営業出身で、市場動向などに詳しい人ですね。中には技術屋出身の人もいたのですが、「できる/できない」というのが先に頭に浮かんでしまうので、わかっていても言い出しづらく、ストレスが大きい。やはり営業の最先端で活躍していた経験のある人が、信頼を置きやすい。

――しかしそれでは、営業の肩を持つばかりになってしまいませんか。

【竹内】 開発にはコストと納期が必ずついて回りますので、合意がないと進みません。何かを盛り込む際にはお金がかかることを納得して販価の計画に反映してもらうといったことを、きちんとステップを踏むので、皆が納得するわけです。

――ある程度、数字や技術にも明るくないといけませんね。

【竹内】 ですから、つくり手側とのパイプも太くないといけませんね。ただSGMができる前から本社側にも商品企画のセクションがあり、営業出身の人材が似たような役割を担ってくれていました。ですから組織ができたからよくなったというよりも、そういうマインドを持った人たちを、組織にして動きやすくしたという言い方のほうが正しいかもしれません。

彼らは本当に粘り強く交渉してくれまして。技術サイドから営業サイドに直接言うと、喧嘩になってしまうところを、「競合はこうなんだから、うちに足りないのはこれで、このコストで埋めてほしい」と何度も何度も詰めていくわけです。こちらとしても目標が明確になってやりやすかったですね。この営業部門との橋渡しをきちんとしてくれる人材の存在が、4代目の成功の大きな鍵ですね。