人間は他人の顔から「2つの情報」を読み取っている
――ほかにはどんな違いがあるでしょうか。
もう一つは眉の形状です。
眉には額を流れてくる雨水や汗を避ける役割があると言われます。人間以外の霊長類の骨の形を見ると、眉の部分の骨が出っ張っていることが分かります。汗や雨水を避けるのであれば、これで事足ります。
しかし、人間は額の部分が隆起し、眉のある部分まで平らな形状です。おかげで、眉を動かしやすく、表情をより豊かに作ることができるのです。人間の眉ほど微細な表情を作ることができる動物はいません。眉や目の動きやしぐさで、その人がどういう心情、状態であるのか相手に伝わる。そのように進化した目と眉の形状、これが人の顔の大きな特徴です。
――人間は、他人の顔や表情からどのような情報を得ているのでしょうか。
人間の顔から得られる情報は大きく2種類です。ひとつはアイデンティティーに関する情報。簡単に言うと、その人が誰であるかを見極めるための情報ですね。対峙しているこの人が、誰であるかわからないと、コミュニケーションがとりにくい。この人は私の知っているAさんだと識別する必要があります。
これはAさん、こちらはBさん、という具合に、人間は当たり前のように人を見分けているように感じますが、実は人間の顔にはそこまで大きな違いはありません。この口の形だからAさんだ。この目はBさんだな、というような見分け方ではなく。実際、AさんとBさんの目や口のパーツを、写真上で入れ替える実験を行っても、人間は違いに気づきにくいことが分かっています。それよりも、目と目の距離とか、配置などの微細な位置関係を感じ取って見分けているのです。これは顔に特化した能力です。
もうひとつは、顔のちょっとした表情の変化や、目の動き、しぐさなどの情報です。これを読み取って、その人の内面にある感情や状態を推測する。眼の前のこの人の感情はポジティブなのかネガティブなのかを感じて、相応に対応するための手がかりとする。顔から得られる重要な情報です。
5000人の顔を識別することができる
――人間は合計で何人くらいの顔を見分けることができるのでしょうか。
イギリスの研究グループが、25人の学生を対象に実験を行っています。家族や友人で思い出せる顔、見分けのつく顔、さらに政治家や俳優、ミュージシャンなどで同じように書き出してもらう。さらに3000人以上の有名人のデータベースを見せて、どの顔を知っているか、などのアンケートを繰り返しました。
その結果、知っている、見分けがつく顔はおよそ5000人と推計しました。この方法が最適なのか、と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、いまのところ同様の実験が他にないので、ここではこの数字を提示しておくことにします。