予想をズバズバ当てたのはIQ85の建設作業員
データをより詳細にみると競馬のオッズ予想の専門家であるかどうかを当てるには被験者の知能はまったく役に立たないことがわかった。たとえば、過去16年間定期的に競馬場に通う知能指数85(初期の知能テストの開発者が「中の下」と分類したレベル)の被験者は、建設現場で働く男だった。
この男は1着に入った馬を全10レースで当て、5回のレースでは上位3着に入った馬の順位を的中させた。これに対して、非専門家の一人は過去15年間定期的に競馬場に通っていた弁護士で、その知能指数は118だった(中の上、かなりできるレベル)。この弁護士の場合、10レースで1着となる馬を当てたのはたったの3回で、上位3着を正しい順番で当てたのは10レースでたった一度だけだった。
この結果がとくに興味深いのは、オッズの正確な予想は大変複雑な作業だという点だ。10以上の要素を考慮しなければならず、そうした要素は互いに複雑に絡み合っている。
いや実は馬のオッズ予想にあたり専門家たちは、非専門家が用いるモデルに加えて、いわゆる乗法モデルといわれるはるかに複雑なモデルを用いていることが研究者にもわかってきた。
仕事の「手際のよさ」に、IQは関係ない
乗法モデルにおいては、たとえば馬場の状態のようないくつかの要素が、最終レースでの馬のスピードなど他の重要な要素にも影響を与えている。別の言い方をすれば、専門家になるためにはきわめて困難な技術が求められているのだ。繰り返していうが、ここでも知能は重要な要素とは思えないのだ。
IQの低い専門家はIQの高い非専門家より、複雑なモデルを用いていたことを研究者は発見した。オッズ予想の専門能力はIQとの相関関係がないばかりでなく、IQテストの中の算数のサブテストの結果とさえ相関関係がなかった。
研究者の結論は、以下のとおりだ。IQテストが測定するものがどんなものであろうとも、認知上複雑な形式をもつ多変量解析を行いうる能力をIQは測ることができない。
この多変量解析という言葉は日常生活ではあまり使われる言葉ではないが、実際には職場での活動や一流だといわれる人の手際よい仕事振りを実に見事に表現しているものだ。物事を卓越して行うには、世間でいわれているような意味でとくに賢くある必要などないのだ。