「個人」が特定されなければ闇バイトにも手を染める
戦後は都市に人口が集中して地方は過疎化が進んでいる。近年は「限界集落」という言葉が示すように、全国の集落(ムラ)は崩壊寸前か、すでに多くの集落が消滅している。都市部を中心に核家族化が進み、単身世帯も急増している。2020年の国勢調査で全世帯に占める単身世帯の割合は約38パーセント、1位の東京都は約50.2パーセントが単身世帯で、1980年と比べると約20パーセント増加している。
都会では隣組的な交流もほとんど見られず、隣人と会話を交わしたこともなく、顔も分からないというケースがほとんどだ。多くの人々は「隣は何をする人ぞ」で日々を暮らしているのである。それに加えてネット社会の進展で不特定多数の人同士の交流は盛んであるが、多くの人がハンドルネームを使い、所在も分からず顔も見えない交流が広く行われている。
ビジネスでは、今でも名刺を交換する文化は残り、お互いに相手の会社の住所は知っているが、相手の住まいは知らないことがほとんどである。そんな状況の中、ネットを媒介としていわゆる「闇バイト」と称する違法な仕事を紹介され、それに応募して特殊詐欺や強盗という凶悪犯罪に手を染める若者も増えている。
外部からの圧力がなくなれば倫理観も減退していくのが人間の本性であるが、その点「礼節を守る」日本人も例外ではない。
世の中が乱れると犯罪に手を染める人が増える
元弘3年(1333)、鎌倉幕府が滅亡すると後醍醐天皇がいわゆる「建武の新政」を行い世の中の構造は180度転換した。これに伴って世の中は大いに乱れた。このとき、後醍醐天皇の御所があった二条富小路近くの鴨川の河原に「二条河原落書」として知られるものが掲げられた。この落書は市民の何ものかが書いたものだが、当時の混乱した状況を如実に伝えている。
冒頭で「此比都ニハヤル物、夜討、強盗、謀綸旨」といい、社会の乱れに乗じて夜討や強盗などの凶悪犯罪が多発したと言っている。また、「綸旨」とは天皇の意向を伝える命令文であるが、そのニセモノが横行しているというのである。世の中の乱れに応じて人心も大いに乱れると、人々は平気でウソをついて凶悪犯罪に手を染める者もいる。