インド洋のマグロを冷凍せずに東京で翌日食べられる理由

経済成長著しいジャカルタの街並み。

ジャカルタ漁港プロジェクトについて、最も興味深かったのは、「たとえ援助案件であっても日本の物差しをそのまま持ち込んではいけない」という折下氏の言葉であった。具体的には、ジャカルタ漁港を建設するに当たり、総延長約4000メートルの護岸・防波堤を建設する工法として、日本サイドからの提案ではなく、インドネシア・サイドの提案が採用されたということである。OTCAの開発調査報告書は、鋼管矢板を使用する構造形式を計画していた。しかし、鋼管矢板は、インドネシア国内では生産されていなかったために輸入せざるをえず、外貨の支払いが必要となる。外貨不足問題に直面していたインドネシアは、この工法は外貨を必要とするという意味で難しいと判断された。その代わりに、すでにインドネシア国内で建設した経験を持つ工法として、竹杭・竹マットを使用することとなった。竹であれば、インドネシア国内に豊富にあることから、外貨を必要としない。また、竹を伐採し、竹杭・竹マットを製作することによって、インドネシア国内の雇用創出につながる効果をもたらすことも期待される。そして、実際に竹杭・竹マット工法が採用されて、100万本の竹が利用されて、ジャカルタ漁港の護岸・防波堤が建設されたのである。

護岸・防波堤の強度を高めることと、濾過効果を通じた海水の水質を保全するために、マングローブも植えられている。自然共生型漁港としての整備も進められている。岸壁にマングローブが育ち、マングローブの並木となれば、漁港の機能を有するだけではなく、将来的にはウオーターフロントとして散策を楽しむこともできよう。さらに、ジャカルタ漁港の海水の水質を積極的に浄化するために、行き止まりになりがちな漁港の奥に、潮位差を利用して、海へ海水を戻すための水路と貯水池も造られている。環境にやさしい漁港を造ろうと工夫されている。

日本のODAプロジェクトの中には、「日本の物差しをそのまま持ち込まれる」こともあるという批判があった。しかし、そのような批判がすべてのODAプロジェクトに当てはまるわけではないという1つの例として、このジャカルタ漁港は大変興味深いものである。

現在、このジャカルタ漁港では、近海の魚のほかに、インド洋のマグロが水揚げされる。日本で売られている多くのマグロは冷凍マグロが解凍されたものである。しかし、ジャカルタ漁港で水揚げされたマグロは、冷凍せずに、生のままジャカルタ漁港からジャカルタ空港へ輸送され、東京へ空輸される。翌日には、そのマグロが東京で食べられるのである。ジャカルタ漁港を見学したのちに、折下家でそのマグロを食することができた。冷凍したマグロしか食べたことのない筆者には絶品であったことはいうまでもない。マグロの夢を見ながら帰国の途についたのは、美味しいマグロを堪能できたことに加えて、生のマグロと夜空を飛んだからかもしれない。

(図版作成=平良 徹 写真=PANA)
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