睡眠時間を大幅に削られると神経新生が抑制されて、海馬の体積が減少するのではないかと瀧先生は推測している。

「今回調査対象とした子供たちの追跡調査を行っていますので、間もなくこの因果関係についても明らかにできると思います。ただ現時点でも、子供の脳を健康に育てるためには十分な睡眠を取らせたほうがいいと言ってしまっていいのではないかと私個人は考えています。携帯電話やゲームを無制限にやらせて夜更かしさせたりせず、子供はなるべく早く寝かす。脳の発達は10歳前後がピークですから、特に6歳から12歳ぐらいまでの間は、たとえ勉強のためであっても睡眠時間を削るのはよくないと思います」

うつ病やアルツハイマー病の患者では海馬の萎縮が顕著に見られるというから、将来子供をこうした病気に罹患(りかん)させないためにも、10歳前後には十分な睡眠を取らせるべきだと瀧先生は言う。

しかし、中学受験を控えた子供の場合、勉強することが山ほどある。多少睡眠を削るのも致し方ないと思うが、いったい何時間ぐらい眠れば“十分”なのだろう。

「今回の研究から何時間眠れば十分と言うことはできません。しかし、少なくとも10時間までは正の相関が見られたわけですから、たとえ中学受験を控えたお子さんであっても、9時間ぐらいは眠らせてやったほうがいいと思いますね」

「非科学的な見解ですが」と断りながら、瀧先生はこんな話を披露してくれた。

「東北大学の医学部に入ってくる学生たちはそれなりに優秀ですが、聞いてみるとみんなよく眠っています(笑)。僕自身、大学に入るまでは夜の10時前に布団に入って朝の6時半に起きる生活でした。子供の頃、夜の10時以降も起きていたのは紅白歌合戦のときだけでしたよ」

早起きは三文の徳。ただし早寝とセットでなければ脳にはよくないようだ。

瀧 靖之
東北大学教授。医師。医学博士。東北大学東北メディカル・メガバンク機構所属。東北大学理学部、医学部卒業、2003年同大学大学院修了。同大学付属病院勤務を経て、東北大学加齢医学研究所にて本記事の研究に携わる。また、同大学川島隆太教授の研究室も兼務。
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